ATD(The Association for Talent Development)

ATD2016事前レポート

ATD2016 International Conference & EXPOが、2016/05/22~25日に米国コロラド州にて開催されます。このカンファレンスは、Workplace Learning & Performance(職場における学習・パフォーマンスの向上)に関する世界最大の会員制組織であるATDが、毎年開催しているものです。本レポートでは、ATD2016公式ホームページに掲載されている内容を参考に、今年のカンファレンスではどのようなことがテーマになるのか、どのような人が講演を行うのかといった見どころを紹介していきたいと思います。

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ATD2016 International Conference & EXPO

このカンファレンスでは、世界中から集まった先駆的企業や教育機関・行政体のリーダーたちが、現在直面している諸問題にどのように取り組んでいるかを企業や国の枠を越えて学び合います。世界における人材開発の最新動向に触れながら、これからの組織・人材開発のあり方について、多くの人との情報交換や課題の探求をしていく貴重な場であるといえます。

今年のキーノート・スピーカー(基調講演者)

ATDでは、毎年様々な分野におけるオピニオン・リーダーや有識者、経営者や実践家などによる基調講演が行われます。そして、この基調講演者たちの語る言葉やメッセージに耳を傾けていくと、人材開発や組織開発、マネジメントやリーダーシップのトレンドとして、いま何が起きているかを探る手掛かりを得ることができます。今年は以下の3名によって基調講演が行われます。

サイモン・シネック

サイモン・シネック氏は、揺るぎないオプティミストです。明るい未来と、それをつくり出す我々の力を信じています。

シネック氏は、素晴らしい知性をもつビジョナリーな思想家と表現され、リーダーや組織に対して、人々をインスパイアする方法を教えています。彼は、大多数の人が日々自分の仕事に満足した状態で家に帰ることができるような世界をつくるという大胆なゴールをもち、自分をインスパイアしてくれるようなことに取り組むよう、人々を動機づける活動をリードしています。

また、彼はエスノグラファー(民俗誌学者)として教育を受け、世界的にもベストセラーとなった『Start With Why: How Great Leaders Inspire Everyone to Take Action(邦題:WHYから始めよ!―インスパイア型リーダーはここが違う)』と、ニューヨークタイムズとウォールストリートジャーナルのベストセラーとなっている『Leaders Eat Last: Why Some Teams Pull Together and Others Don’t(邦題:リーダーは最後に食べなさい! ―最強チームをつくる絶対法則)』の2冊を出版しています。

シネック氏は、自分の組織や世界に大きなインパクトを与え、刺激をもたらすインスパイアの力をもつリーダーや企業に関心を抱いています。そういったリーダーの思考や行動、コミュニケーションの仕方や、人々が本来の力を発揮できる環境には、注目に値するパターンがあることを発見しました。

彼は、他のリーダーや組織がアクションをインスパイアできるよう、彼自身の思考をシェアすることに注力しており、”Why?”というコンセプトを有名にしたことで知られています。そのコンセプトを紹介したTED Talkは、TED.comで3番目に視聴回数が多かったビデオとなりました。

彼のビジネスやリーダーシップにおける、型にはまらない、イノベーティブな視点は国際的な注目を集め、3MやCostco、Deckers、Ernst & Young、HSM、jetBlue、KPMG、Pfizer、NBC/Universal、米軍、政府機関、起業家といった、多くのリーダーや組織から招かれることになりました。また、国連や米国議会、米空軍・海軍・陸軍のシニアリーダーたちと意見交換をする機会にも恵まれました。

シネック氏は世界中での講演や、ニューヨークタイムズ、Incマガジン、NPR、ビジネスウィークといった地方紙や全国紙のコメントの中で、彼のオプティミズムを共有しています。また、彼はツイッターや(*)自身のブログでも頻繁に発信しています。

シネック氏は、世界で最も評価の高いシンクタンクである、RAND社の非常勤職員で、芸術の世界や、世界の7億人にきれいな水を提供している団体waterとのチャリティ活動など非営利の世界でも活躍しています。また、Tami Stronach Dance Companyのボードメンバーも務めています。ニューヨーク在住。

ブレネー・ブラウン

ブレネー・ブラウン博士は、ヒューストン大学大学院(Graduate College of Social Work)の研究教授で、過去13年間をバルネラビリティ(Vulnerability)、勇気(Courage)、価値(Worthiness)、恥(Shame)についての研究に費やしてきました。

ブラウン氏は、ニューヨークタイムズのNo1ベストセラーとなった、『Rising Strong』『Daring Greatly(邦題:本当の勇気は「弱さ」を認めること)』『The Gifts of Imperfection(邦題:「ネガティブな感情」の魔法::「悩み」や「不安」を希望に変える10の方法)』を執筆しました。

彼女はまた、より勇敢な生き方、愛し方、導き方を求める個人や組織に向けて、Eラーニングのコースやワークショップ、面談を提供するオンラインの学習コミュニティ、The Daring Way and COURAGEworksの創始者兼CEOでもあります。

2010年の彼女のTEDx Houstonでのスピーチ”The Power of Vulnerability”は、2,500万人以上の目に触れ、世界で最も視聴されたTED Talkトップ5に入っています。

ブラウン氏は、夫であるスティーブと、彼らの子どもエレンとチャーリーと一緒に、ヒューストンで暮らしています。

ジェレミー・グーチェ

ジェレミー・グーチェ氏は、200以上のイベントにおいて15万人にも及ぶ人々の前で講演をした経歴をもっており、カナダで最も人気のあるスピーカーの一人となっています。MBAとCFAを取得しており、著書はベストセラーとなりました。

また影響力のあるウェブサイトも運営しており、幅広い自身の魅力とともに、クリエイティブに、世界を股に掛けて活躍しています。彼が運営するTrendHunter.comは、どこからでもアクセスできる最先端のアイデアが集められ、最も影響力があり、頻繁に更新されている、最も大きなコレクションと評されています。
グーチェ氏は創始者として、絶え間なく「The Next Big Thing(次の大物=価値があり、かつ探しづらいもの)」を探し続け、それらを世界中のオーディエンスに提供しており、ウェブサイトは月に何百万ものアクセス数を記録しています。

グーチェ氏は、Trend Hunterを信じられないほどのスピードで成長させ、マーケティングやデザイン、テクノロジーやその他の分野で次に来るものを発掘する、信頼できるショーケースをつくり上げました。今や競合と比較しても約15倍のページ・ビューを記録しています。
その影響力は、4万もの記事がこのウェブサイトを特集・引用するほどであり、グーチェ氏自身もEntertainment TonightからBBCにいたるまで、様々な媒体に出演しました。彼はまた、リーディング・カンパニーに招かれて、クール・ハンティング(トレンドの発掘)やイノベーション、マーケティング戦略、The Next Big Thingとビジネスとの関連について語っています。

グーチェ氏はCisco Innovation Excellence AwardやBDC’s Young entrepreneur of the Year Awardを受賞しています。大胆かつインタラクティブな講演を通して、彼は速いスピードで広がっている新しいトレンドや戦略のフレームワーク、伝播するようなイノベーションに対する情熱を提供してくれます。
ビジネス・コンテクストにおけるイノベーションのユニークな視点をもち、企業戦略とウェブ2.0の両方のバックグラウンドを活用して、インスピレーションとアイデアを生み出し、クリエイティビティを刺激し、ポテンシャルを解放するツールを提供してくれるでしょう。

彼は28歳にして、Capital Oneの最も若いビジネス・ディレクターとなり、マーケットを率いる商品の10億ドルのポートフォリオにチームを育て上げました。Monitor Groupのマネジメント・コンサルタントとしても、フォーチュン50のクライアントをもち、トップレベルの戦略アドバイスを提供しています。彼の著書『Exploiting Chaos』は、Axiom Business Book Awardを受賞し、Inc. Best Book for Business Ownersに選ばれました。また、800 CEO Read listのNo1ベストセラーでもありました。

グーチェ氏は、スタンフォード大学(Graduate School of Business)でイノベーションを学び、Queen’sのMBAをもち、CFAでもあります。また、カルガリー大学から、2010 Graduate of the Last Decadeとしても選ばれています。

彼の基調講演では、止めどないアイデアへの道を見せてくれるでしょう。Coca-ColaやSony、Wells Fargoのような300社以上に渡るクライアントとともに、世界で最も困難なイノベーションの課題を解決する際に試した、数千ものアイデアやフレームワークを学ぶことによって、彼自身が身に着けたやり方で、目の前に広がる機会のパターンを探すことを教えてくれるでしょう。

どうやって我々は成功を妨げる心理的罠を克服できるのでしょうか? 彼の著書『Better and Faster: The Proven Path to Unstoppable Ideas』をもとに、なぜ頭の良い人が素晴らしいアイデアを見過ごしてしまうのか、それについてどうしたらよいのかにを語ることで、人類の進化と、スピードの速い変化に適応する我々の能力を関連づけます。

彼の魅力あふれる、ユーモアのある、ためになる教訓は、目立つことのないビリオネアや、人が見過ごすようなチャンスに目をつけたことで、考えられないようなことを成し遂げた普通の人々の、まだ知られていないストーリーが描かれているのです。それらのストーリーから、自分をより良い投資家、イノベーター、クリエイター、アダプターへと導くような、パターンやヒントを得ることができるでしょう。

※キーノート・スピーカーの写真は、ATDのウェブサイトから引用しています。

ATD2016のトラックとセッションの見どころ

ATDでは、基調講演の他に数多くのコンカレント・セッションが開催されます。3月30日時点で公開されている情報によると、今年は全体で486のセッションおよびワークショップが行われる予定です(※セッション数は常に更新されていくため、今後セッション数が増減することもあります)。また、同時並行で開催されるEXPOにおいては、例年300以上のブースの出展が見込まれ、学習とパフォーマンスの向上をサポートする様々な商品やサービスが紹介されます。

以下に、今年掲げられた14個のセッション・トラック、および各トラックのセッション数を紹介します。

・ラーニング・テクノロジー(Learning Technologies):40セッション
・リーダーシップ・ディベロップメント(Leadership Development):46セッション
・トレーニング・デリバリー(Training Delivery):24セッション
・インストラクショナル・デザイン(Instructional Design):31セッション
・ヒューマン・キャピタル(Human Capital):42セッション
・キャリア・ディベロップメント(Career Development):28セッション
・グローバル・ヒューマン・リソース・ディベロップメント(Global Human Resource Development):25セッション
・ラーニングの測定と分析(Learning Measurement & Analytics):18セッション
・ラーニングの科学(The Science of Learning):22セッション
・セールス・イネーブルメント(Sales Enablement):14セッション
・マネジメント(Management):12セッション
・ガバメント(Government):6セッション
・ヘルスケア(Healthcare):11セッション
・ハイヤーエデュケーション(Higher Education):4セッション

以降、各トラックのセッションの見どころを紹介します。

ラーニング・テクノロジー

このトラックでは、様々なテクノロジーを用いて学習を効果的に行う方法や事例などを取り上げています。

この分野の近年の傾向として、バーチャル・ラーニングやソーシャル・ラーニングなど、テクノロジーの進化に伴って、学習のあり方を変革していくことをテーマとしたセッションが多く行われている印象があります。

今年は特にビデオ・スクリーン(画像)のデザインや活用方法について取り上げるセッションが増えているように感じます。「SU415:Interactive Video for E-Learning(Eラーニングのためのインタラクティブビデオ)」では、ビデオの制作が非常に容易になった現在において、これまでの伝統的な一方通行の学習体験を見直し、学習者の魅力的な交流に向けたビデオの活用方法について学ぶことができそうです。
また、「SU117:Designing for All Screens(すべてのスクリーンのためにデザインする)」では、様々な学習ソリューションが存在する中、一貫したテーマのもとでデザインや認識を統合し、豊かな学習経験を生み出していくアプローチが紹介されます。「Polymathic Learning Experience Design」というコンセプトにも注目してみたいと思います。

例年同様、バーチャル環境におけるラーニングやトレーニングのデザインを扱ったセッションも多くあります。
「M118:Interact and Engage! Activities for Virtual Training, Meetings, and Webinars(交流して引き込もう!バーチャルトレー二ング、ミーティング、ウェビナーのための活動)」「M216:Virtual Training Implementations: 3 Keys to Success(バーチャルトレーンングの導入:成功への3つのカギ)」「W119:Designing and Delivering Virtual Learning Programs(バーチャル・ラーニング・プログラムのデザインと提供)」などが挙げられます。

また、昨今ATDでは、「バイト・サイズ(Bite-Size)」という言葉に表されるように、現場において5分~7分といった短い時間で、誰もが、いつでも、どのような形でも、学習できることを意図して学習をデザインしていく取り組みが数多く見受けられます。
その流れから、今年も「SU118:Tech Tapas: Plating Your Microlearning(技術の小皿料理:マイクロ・ラーニングをお皿に盛る)」というセッションが行われます。

その他にも、これまでの流れから、ソーシャル・ラーニングを扱ったセッションも見受けられます。「TU415:How to Succeed When Making the Move to Social Learning(ソーシャル・ラーニングへの移行する際にいかに成功するか)」では、LinkedInを通して学習プログラムを従業員中心のコミュニティへ変化させる方法が紹介されます。ソーシャル・ネットワークのツールを通して、価値ある学習プログラムを構築するヒントが得られるかもしれません。
また、昨今やや目立たなかったゲーミフィケーションのセッションが今年は増えています。「SU215:Using Gamification to Teach Complex Topics(ゲーミフィケーションを使って複雑なトピックを教育する)」「SU317:Supercharge Your Learning With Games(あなたの学習をゲームでスーパーチャージ)」「TU107:Zombie Salesapocalypse: Making an Epic 3-D Immersive Sales Video Game(ゾンビ・セールスアポカリプス:壮大な3-D実体験型セールスビデオゲームをつくる)」などが挙げられます。

その他興味深いところとして、「W115:Turkcell Digital Academy: A Story of a Corporate MOOC(タークセル・デジタルアカデミー 企業MOOCの物語)」では、タークセルがMITとパートナーシップを組んで行ったMOOC(Massive Open Online Courses)の取り組みが紹介されます。自社だけではなく、顧客や一般、起業家コミュニティに対しても2,500以上のビデオ学習を展開した先駆的な取り組みについて学べる機会になりそうです。

最後に、「M317:Adaptive Learning: Unleashing the Holy Grail of Deep Learning Measurement(適応学習:深い学習の効果測定という至高の目標を解放する)」では、学習者それぞれの行動や能力、さらには他の外部要因に基づいて、学習者の学習体験を適合(最適化)させる方法論のヒントを学ぶことができるかもしれません。学習設計の可能性が広がる機会になりそうで、注目してみたいところです。

リーダーシップ・ディベロップメント

このトラックでは、リーダーシップ開発に関する広範囲なテーマが扱われます。その年のトレンドを反映したセッションや、毎年繰り返し行われるスピーカーのセッションなど、様々なものがあります。

今年のトレンドとしては、新任マネジャーのリーダーシップ・マネジメント力開発のセッションが増えていることが挙げられます。この背景には、米国におけるベビーブーム世代の退職と、多くのミレニアル世代のマネジャー就任が大きな影響を与えていることが考えられます。ある調査によると、今年は全米で3600万人のベビーブーマーが仕事をリタイアし、職場におけるミレニアル世代の割合が3割を超えるそうです。
こうしたミレニアル世代の4分の1が、新たにマネジャーになると予想されていて、そうした新たなマネジャーをいかに育てていくかということに関心が高まっているようです。

そうしたトレンドを表すセッションとしては、「SU314:The Leadership Imperative : How to find, Engage, and Develop the Next Generation of Leaders(リーダーシップの必須要件:新世代のリーダーを発見し、エンゲージし、育成するには)」や、「SU408 :Keys to a (Really) Successful New Supervisor Training Program((本当に)成功する新任スーパーバイザー研修プログラムをつくる秘訣)」が挙げられます。

こうしたミレニアル世代がもつ新たな価値観や行動パターン、学習スタイルや、IT技術の進化、さらにはニューロサイエンスの発展に対応する形で、これまでリーダーシップ開発において当たり前とされてきたものを見直そうという動きも目立っています。
「SU109:What 15,000 Assessments Spanning 300 Organizations Say About Leader Readiness (300社で実施された1万5000人分のアセスメント結果が示す、リーダーシップ開発状況について)」では、DDI社が行ったリーダーシップ開発状況に関するリサーチ結果が共有されるようです。「SU207:Motivation Science : Building a Compelling Case for Rethinking Leadership Development(モチベーションの科学:リーダーシップ開発の再考を促す魅力あるケースを構築するには)」では、ケン・ブランチャード・カンパニー社のコンサルタントが、リーダーシップ・コンピテンシーの再考を求めるセッションを行うようです。

また、ジェンダー・ダイバーシティという観点や、競争優位性を確保するという観点など、様々な観点から女性リーダーに関するセッションが増えているのも今年の特徴といえそうです。
日本においてもこうした議論は盛んになってきましたが、ダイバーシティをどのレベルで捉えているのか、具体的にどのような実践を行っているのかは興味深いところです。

その他にも、ケン・ブランチャード氏、ジャック・ゼンガー氏などリーダーシップ開発のグルと呼ばれるメンバーのセッションも例年通り行われます。また、2013年のASTD ICEにおいてキーノートスピーチを行ったリズ・ワイズマン氏のセッションも開催されるということで、彼らがどのようなメッセージを発信するのか注目していきたいと思います。

トレーニング・デリバリー

このトラックは、デリバリーの技術や学習効果を高めるアクティビティ、ファシリテーション・スキルに関するセッションによって構成されています。一昨年に別途新設された「インストラクショナル・デザイン」や「ラーニング・テクノロジー」と合わせて、テクロノジー応用や、新しい時代におけるデリバリーのトレンドを知ることのできるトラックです。

昨年までと比較して今年のトラック内では、あまり取り上げられなくなったキーワードの1つに、「インプロヴァイゼーション(インプロ)」があります。その代わりに「ストーリーテリング」に関するセッションが散見されます。
昨年、インプロのセッションをもっていたHeld2gether社のヴィエト・ホァン氏が、ストーリーテリングのセッション「W309:Crafting Powerful Stories That Inform, Persuade, Inspire, and Entertain(情報を伝え、説得し、インスパイアし、楽しませるような強力なストーリーを生み出す)」を行うことが印象的です。
ストーリーテリングは、長年、ファシリテーターだけでなく人材開発に携わるすべての人々に求められるコンピテンシーとして注目を集めてきましたが、リアルとバーチャル、世代、文化など、様々な壁を超えたコミュニケーションが求められる今日において、その必要性は高まり続けているようです。

今年は、タレント開発や情報・アイデアの伝達において、説得ではなく、相手が共感してフォロアーシップを取ってくれるように働きかけることを目的に、ストーリーのデザインを行っていこうとするセッションがいくつか見られます。
中でも、昨年人気だったダグ・スティーブンソン氏の「W106:Storytelling: the Secret Sauce for Making an Emotional Connection and Enhancing Knowledge Retention(ストーリーテリング:感情的つながりをつくり、知識の定着度を高める、秘密の調味料)」、ストーリーテリングのプロであり受賞経験もあるビデオプロデューサーのリチャード・フレミング氏による「SU120:Enough About Storytelling, Let’s Talk Character(ストーリーテリングの話はもういいでしょう、次はキャラクターについてです)」には注目してみたいと思います。
特に後者では、会社の文化、会社のビジネスの文脈に合わせ、対象者を引き込むような要素、コンセプトをトレーニング・プログラムに取り込むための「キャラクターをデザインする」という新たな概念を用いて、よりインパクトを与えるストーリーデザインについて話を聞くことができそうです。

年々増加するバーチャルのミーティングやトレーニング、そのファシリテーションに関するセッションも、今年度の着目点の1つです。
たとえば、「TU115:Virtual Presence: Inspire and Engage in the Virtual Classroom and Beyond(仮想実在:バーチャルな教室内で、またその枠を越えて、感化し、エンゲージする)」では、多くの企業でバーチャル・ファシリテーションをサポートしているシーン・カバナー氏より、バーチャル・プレゼンスのための行動モデルが示されるようです。これまでの実例を生かした、示唆に富んだセッションとなる期待がもてます。

また、「M219:Structured Skills Training for Labor-Centric Jobs(労働者中心の仕事のための構造化されたスキルトレーニング)」では、オンライン学習・対面学習を組み合わせた事例を聞くことができそうで、期待したいと思います。
併せて、毎年セッションを持っているエレイン・ビーチ氏による「M206:101 Ways to Expand Learning Beyond Your Classroom(教室の枠を超えて学習を拡げる101の方法)」でも、オンライン学習の活用についての示唆を得られるかもしれません。

また、オンラインのトレーニング・プログラムについては、「W206:From (LMS) Zero to Hero: How One Company Used Video to Reinvent Its Training Program((LMS)ゼロからヒーローへ:ある会社が、トレーニング・プログラムを再開発するためにどのようにビデオを使ったか)」に注目したいと思います。
実際の企業の事例から、既存のオンラインのトレーニング・プログラムをよりストレスが低く、スピード感をもったものへ再構築していく際の知見について共有されることが期待されます。

なお、例年登場する人気スピーカーのセッションとしては、ボブ・パイク氏の「M106:Becoming a Master Trainer: Tips, Tactics, and Techniques for Getting Results From Your Training!(優れたトレーナーになる:あなたのトレーニングから結果を生むための ティップス(秘訣)、タクティクス(戦法)、そしてテクニック!)」、ジム・スミス氏の「TU406:5 Minutes: Tools and Tips for Leveraging Those Critical 360 Seconds!(5分間:このクリティカルな360秒を活用するためのツールとコツ)」が挙げられます。

また昨年、声にフォーカスしたセッションを開催し大変好評を博していたバーバラ・マカフィー氏が、再び「TU308:Unleash the Power of Your Full Voice: A Playful Introduction to Your Most Overlooked Training Tool(あなたの全力の声のパワーを解放する:あなたが最も見過ごしがちなトレーニングツールへの楽しいいざない)」というセッションをもつようです。オンライン環境においてもプレゼンスを高めていくために、今年も声に関するファシリテーション・スキルのコツについて、体感的に学びを得ることが期待できます。

インストラクショナル・デザイン

「インストラクショナル・デザイン」は、成果を高めるための学習やトレーニングのデザイン、学習とビジネスとの結合、Eラーニングなど、幅広いテーマで構成されています。セッション数は、昨年と同数の31となっていますが、その中でも、ラーニング・トランスファーをいかに促進するかというテーマが増加しているのが、今年の傾向といえそうです。
ラーニング・トランスファーについて扱われているセッションは、テクノロジー、アプローチ方法、学習デザインなど多様なテーマで取り上げられており、そのあり方や実現の仕方を広く深く考える機会となりそうです。

たとえば、アプローチ方法としては「SU205:Flip and Drip Approach to Leadership Development: Accelerating Learning Transfer(フリップ&ドリップアプローチによるリーダーシップ開発:ラーニング・トランスファーの加速)」、学習デザインの仕方は「SU409:Learning That Lingers: Designing and Delivering for Transfer(後に残る学習:変容のためのデザインと伝達)」、テクノロジーの用い方については「SU406:Using Technology to Produce Learning Transfer and Sustainable Corporate Change(ラーニング・トランスファーと持続可能な企業変容を作るテクノロジーの用い方)」、ラーニング・トランスファーを起こしたり、成功させるポイントについては「W217:7 Crucial Factors to Make Transfer Happen(ラーニング・トランスファーを起こすための7つの欠かせない要因)」と「W312:Learning Transfer Gold: Lessons From Down Under(金のラーニング・トランスファー:下からの教訓)」が挙げられます。

また、「SU203:Proving Successful Learning Transfer Through Squishy Metrics(定まりにくい測定基準を通してラーニング・トランスファーの成功を証明する)」では、ラーニング・トランスファーを推進した後の計測方法について言及されるようですので、ラーニングをデザインする際に避けては通れない効果測定のあり方についてもヒントを得ることができそうです。

また、日本でも「切片学習」として着目されているバイト・サイズの学習にも注目したいところです。たとえば、「SU312:Building Bite-Size Learning in a Traditional Training World(伝統的なトレーニングの世界でバイト・サイズの学習を作り上げる)」において、「学習者が集中を保てる時間は20分以下」という研究結果とともに、長時間のトレーニングをバイト・サイズに変更する方法が共有されます。ここでも神経科学の裏づけが強調されているのが興味深いところです。

また、「TU114:Making Microlearning Work, at Work(マイクロ・ラーニングが仕事でうまく働くようにすること)」では、誰でもいつでもアクセスできる形で学習教材を提供したマイクロ・ラーニング(ナノ・ラーニング)の事例が紹介されます。具体的な事例については、「W210:Beat the Ebbinghaus Forgetting Curve(エビングハウスの忘却曲線に打ち勝つ)」において、忘却を押さえるためにバイト・サイズの学習が有効であるという科学的な根拠をもとに学習をデザインし、成果を上げた取り組みが紹介されます。
これらのセッションからは、今後のトレンドとなる学習のあり方を感じることができるかもしれません。

また、バイト・サイズの学習と同じように「長時間の公式なトレーニングではない学習のあり方」という観点で捉えると、インフォーマル・ラーニングについてのセッションにも着目したいところです。
たとえば、「TU110:LEaP Framework: “Informal” Learning Does Not Mean “Unplanned” Learning(LEaPの枠組み:”インフォーマル”なラーニングは、”計画的でない”ラーニングという意味ではありません)」においては、フォーマル・ラーニングとインフォーマル・ラーニングを混ぜ合わせてデザインするための方法論が紹介されます。
また、「M208:Learning Anytime, Anywhere: How to Activate Informal Learning at Work(学習をいつでも、どこにいても:いかにして仕事におけるインフォーマル・ラーニングを活発化させるか)」では、50年に及ぶインフォーマル・ラーニングの研究結果と世界最大のデータベースをもとにした事例が紹介され、組織内でインフォーマル・ラーニングを活性化する方法が紹介されます。
こちらのセッションでは”A Personal Learning Challenge Job Aid”というツールも提供されるようなので、具体的な実践イメージを考える良い機会になるかもしれません。

視覚的に参加者の関心を引きつけることを目的としたセッションは、過去にも多く開催され、昨年からはインフォグラフィックという概念も登場しました。
「SU306:Make Powerful Infographics . . . Fast!(強力なインフォグラフィックを作ってください...速く!)」「SU115:Crash Course in Visual Design(ビジュアルデザインの短期集中コース)」「M108:See Your Point: 3 Simple Steps to Vibrant, Vivid, Visual Presentations(大事な点を見つけてください:鮮やかで、鮮明で、視覚的なプレゼンテーションへの簡単な3ステップ)」などでは、学習者に訴えかけたり、学習にインパクトを与えられるように画像や動画、Eラーニングやスライド等の視覚デザインを改善する方法を学べます。
これらの手法を、先に述べたバイト・サイズのトレーニングをデザインする際にも必要なテクニックとして捉えると、また新たな観点でアイデアを得ることができそうです。

ヒューマン・キャピタル

このトラックでは、Human Capital(人的資本)を最大限に高め、組織のパフォーマンス向上や変革を推進するためのアプローチや取り組み例などが紹介されています。扱われているテーマとしては、タレント・ディベロップメントやタレント・マネジメント、エンゲージメントやダイバーシティ&インクルージョン、メンタリングやコーチングなど幅広いものが挙げられます。

今年の傾向として、世代や性別、仕事への価値観などの職場の多様性が高まり、かつ働く人々の間の相互のインタラクションが増えるような環境の中で、いかにより良いチームや組織、ワークプレイスを築いていくかといったことを探求するセッションが多く見受けられるように思います。

具体的な見どころとして、たとえば「SU410:Focusing on Millennials? You’re Doing It Wrong.(ミレニアル世代に重点を置く?やり方を間違っています)」では、ミレニアル世代へのアプローチを検討する上では、ミレニアル世代のみにフォーカスを限定して分析するのではなく、多様な世代が共に学び、協力し、より生産的になるためにどうしたらよいかを考えるべきであるという視点を提示しています。調査データ等のマクロの観点、および具体的な事例などのミクロの観点の両方から探求が深められそうです。
また、「M315:Communication in the Workplace: Navigating the Digital Divide(職場のコミュニケーション:デジタル・ディバイドの舵を取る)」では、バーチャルな職場環境で起こりやすいコミュニケーションの断絶に対する効果的な取り組みについて紹介されるそうです。

ジェンダーを取り上げたセッションも散見されます。「TU204:Skills to Turn Gender Bias Into Influence(ジェンダー・バイアスを影響力に変えるスキル)」では、行動科学の実験から発見された、ジェンダー・バイアスを影響力に変えるスキルを学ぶことができそうです。また、「M211:Women in Learning Leadership: Lessons From the Field(リーダーシップを学ぶ女性:現場からの教訓)」では、ラーニング業界でキャリアを築いてきた女性が集い、女性のリーダーシップについてパネル・ディスカッションが行われる予定です。

また、ダイバーシティ&インクルージョンをテーマとしたセッションも見受けられます。「TU111:Leveraging Curiosity and Improvisation in Diversity and Inclusion Training(ダイバーシティとインクルージョン研修において好奇心とインプロビゼーション(即興)を活用する)」では、インプロビゼーションの行動やスキルを活用したD&Iのトレーニングが取り上げられます。好奇心を高めることが多様性への不安を低減するという視点が興味深いです。
また、「W109:Reality-Based Inclusion: Building Resilience and Bulletproofing for Success(リアリティに基づいたインクルージョン: レジリエンスを構築し、成功のため防弾する)」では、レジリエンスを構築する5つの要素の紹介を通して、多様なチームを創る上での新しい知恵を得ることができるかもしれません。
併せて、多様性を受け入れる職場での働き方について、「M210:Work-Life Balance Policies That Actually Work(実際に機能するワーク・ライフ・バランスの方針)」の中では、持続可能なワーク・ライフ・バランスを確立する先進的な取り組みが紹介されています。

また、そうした環境の中で、働く個人やチーム、組織がもつ力を発揮し、高めていくためのアプローチを検討していくセッションも多く見受けられます。
たとえば「TU211:Learning to Change: Know Your Enemy(変革することを学ぶ: 敵を知ること)」では、組織変革に伴う個々人の変化にフォーカスを当て、不確実性がもたらすストレスにうまく対処しながら、組織の変革と個人の変革を成功に導くモデルが紹介されるそうです。

コーチングを扱ったセッションにおいては、「SU210:Coaching for Maximum Impact: Using the Brain to Enhance Change(コーチングで最大の効果を得る: 脳を使って変革を促進する)」「M300:Speed Coaching?Coach in Less Than 10 Minutes Using 7 Simple Skills(スピード・コーチング??7つのシンプルなスキルを用いた10分間以内のコーチング)」など、脳科学や切片学習など、昨今トレンドとなっているテーマやコンセプトを取り入れたコーチングのモデルが紹介され、これまでとは違った文脈からコーチングを考える機会になりそうです。

また、個々の力だけではなく、チームの力を高めていくことに焦点を当てたセッションも多くみられます。「TU305:Long-Lasting Leadership in the Era of Dynamic Teaming(ダイナミック・チーミングの時代に長続きするリーダーシップ)」では、短期間でチームが結成・解散するような動的な環境の中で、いかにリーダーシップを発揮していくかが取り上げられます。
「TU312:Mentoring Conversations: The Who, the What, and the How(メンタリングの会話: 誰が、何を、どうやって)」では、モダン・メンタリングをテーマに昨年も好評を博したランディ・エメロ氏が、バーチャル環境を含めて、グループで行うメンタリングについて実践的な学びを深められそうです。

他にも、「SU110:Secrets to Building an Award-Winning Learning Organization(賞を取った「学習する組織」をつくる秘訣)」や「M110:Learning to Win: The Learning Organization as a Competitive Force(勝つことを学ぶ:競争力としての学習する組織)」など、学習する組織を取り上げたセッションも見受けられます。
「SU411:The Agility Imperative: How Businesses Leverage Agile Talent to Win(アジリティ(俊敏さ)の条件:アジャイルな人材を活用してビジネスに勝利する)」や「W209:Building Leaders’ Change Capability: There’s a Gap for That!(リーダーの変革能力を構築する:そこにこそギャップがあります!)」など、変化が激しく、複雑かつ不確実なビジネス環境の中で大切になると思われる学習のアジリティや変革する能力などを扱うセッションにも注目してみたいところです。

キャリア・ディベロップメント

このトラックでは、個人および組織のキャリア開発や、タレント開発の分野で働く人々のキャリアについて扱っています。

昨年に引き続き、今年も個人の視点からみたキャリア開発に関するセッションが多くを占めているようです。特に、エンゲージメント、幸福感、情熱といったキーワードで表されるような、個人のマインドのあり方をパフォーマンスにつなげるためのポイントを扱うセッションが見受けられます。

たとえば、毎年セッションを行っているベバリー・ケイ氏は、「TU213:Develop Me or I’m History: The Career Development Imperative(私を育成しないと過去の遺産になります: キャリア開発の必要条件)」の中で、部下の情熱とビジネスの拡大をつなげるために大切なこととして、マネジャーが部下一人ひとりと定期的に対話を行い、マネジャーが部下にとって自らの成長を支援してくれる存在だと認識されることであるというメッセージを投げかけるようです。
マネジャーと部下をコネクトする実践的なスキルや、部下の能力の発揮と対話の相関についてのデータが紹介されるようで、今後のマネジメントにおける具体的な実践ポイントが示唆される可能性のある、注目したいセッションです。

また、「M113:How to Boost Your Career Well-Being(あなたのキャリアの満足感を高めるには)」では、自身のキャリアの満足感を高めるための具体的なステップが紹介される予定です。加えて、そのステップの1つには、最近話題になっている「マインドフルネス」が挙げられるようです。

なお、タイトルにある「キャリア満足度(Career Well-Being)」は、トム・ラス氏・ジム・ハーター氏の著書『幸福の習慣(原題:”Wellbeing”)』の中で紹介されている考え方で、文字通り幸福な状態になるための5つの要素のうちの1つとされています。ちなみに5つの要素とは、「Career Wellbeing」「Social Wellbeing」「Financial Wellbeing」「Physical Wellbeing」「Community Wellbeing」とされています。

このトラックで見られる別の傾向としては、複雑で変化の激しい現代において、メンバーやリーダーがキャリアを切り開いていくために大切にしたいポイントを扱うセッションも見受けられます。

たとえば「TU113:Accelerating Development: Shortening the Time to Autonomy(開発を加速する:自律までの時間を短縮する)」は、シェルの企業事例を通じて、複雑さとダイナミックさを増している現代において、一人ひとりの能力を効果的、かつ効率的に開発し、組織に生かしていく方法が語られるセッションです。
「自律性」の定義を見直したり、シェルの導入したプログラムの事例や結果がストーリーテリングで共有される等、示唆に富んだセッションとなる期待がもてます。

また、「SU114:Champions for the Human Spirit: Peer Leaders and Change Agents(ヒューマンスピリットのチャンピオン: 同僚のリーダーとチェンジエージェント)」は、自身がピア・リーダーやチェンジエージェントとして組織に変化を及ぼすための具体的なプランを検討するセッションです。
参加者自身が所属する組織をシステムとして捉え直し、周囲とどう関わり、どのような影響を及ぼしているか、また、組織で起きている対立の原因や、それを軽減する方法などについても検討するようで、自身のあり方や役割をあらためて探求しながら、日々の実践に生かせるヒントが得られるセッションとなるかもしれません。

また、自分の価値を、いかに適切に企業に伝えてキャリアアップにつなげていくかについて扱われるセッションとしては、「TU303:Stand Out, Be a Rock Star at Work!(立ち上がれ、職場のロックスターになれ!)」「SU313:Defining and Leveraging Your Professional Value(あなたのプロフェッショナルとしての価値を決め、活用するには)」が挙げられます。

その他の注目セッションとしては、「W114:A Robot Wants Your Job: Future-Proof Yourself for Tomorrow’s Workplace(ロボットがあなたの仕事を欲しがる: 未来の職場に備えて自分を陳腐化しない方法)」が挙げられます。
このセッションでは、仕事の機械化に伴い変化する職場、仕事をどのように受け止め、対処していくかという最近話題となっているテーマが扱われます。具体的には、将来的に多くの仕事がコンピュータに取って代わられるといわれる中、将来の職場において求められる力や、その力をどう身につけるかについて紹介されるようです。

昨年も登壇していたキャリー・ウィルヤード氏は、『The 2020 Workplace』の共著者であり、サンマイクロシステムズをはじめとした、フォーチュン500のうちの5企業のCLOを務める、実績のあるスピーカーです。2016年1月に出版された『Stretch: How to Future-Proof Yourself for Tomorrow’s Workplace』という著書の中では、世界的な調査やインタビューを通じて見えてきた、将来の職場において活躍するために獲得すべきスキルが書かれており、こちらの著書と共に、注目してみたいセッションの1つです。

また、「TU101:How to Become a Talent Development Diva!(タレント・ディベロップメントのディーバになる!)」では、タレント・ディベロップメントにおける4つのトピックについて、各領域のコンサルタントとともにパネル・ディスカッションを行います。

パネラーの一人であるエレイン・ビーチ氏はこれまで30年に渡り、大規模な組織変革に携わってきた人物で、「Harvard Management Update」「Wall Street Journal」「Fortune」等への記事の掲載や、ASTD Handbookをはじめとした70冊以上の著書や編集、ATD’s Bliss Awardやウィスコンシン女性起業家メンター賞等の数々の受賞歴もある、大変実績のあるスピーカーです。経験を生かした幅広い観点からのディスカッションが期待できる点で、注目してみたいセッションです。

グローバル・ヒューマン・リソース・ディベロップメント

このトラックは、グローバルの変化の動向を踏まえた人材育成のアプローチや取り組み事例を扱ったセッションによって構成されています。2011年に新設されて以来、セッション数は増加傾向にあります。
特徴として、ある国や地域の取り組み事例やコーポレート・ユニバーシティーのあり方といった特定の範囲について取り扱うセッションは減少しました。新たに登場したテーマとしては、どのように変化に適応して未来に備えるか、また、真のグローバル化とは何かといったより大きく深いテーマや、他のトラックにも見受けられる、思考や脳のあり方にフォーカスしたものなどが挙げられます。

変化に適応し未来に備えるという観点では、グローバルでの経済成長の鈍化に対して、企業がどのように適応していくかをテーマにしたセッションが見受けられます。
たとえば、「SU216:Looming Productivity Crisis: The Need to Future-Skill Your Workforce Now(迫りくる生産性の危機:今あなたの従業員に必要な「未来のスキル」)」では、経営とHRが一体となって社員を再戦力化する必要性について調査研究結果を元に共有され、「SU416:Learn How a Transformative Approach Helped a Market Leader Grow Ahead of the Market(マーケットリーダーがある変革アプローチによってどのように業界水準を超える成長を達成したかを学習する)」においては、思考や行動の様式を変化させ持続的成長につなげた事例が紹介されます。

また、今年のトレンドとして他のトラックにも共通する傾向であるニューロサイエンスが、グローバルの人材開発といった観点で、どのように語られるのかが興味深いところです。

脳や思考に着目したセッションとしては、「SU100:The Brain, Not Culture, Is Vital for Learning!(学習にとって極めて重要なのは、文化ではなく脳です!)」で、トレーニングを行う際にニューロサイエンスでアプローチするというグローバルでの人材開発のトレンドが紹介されるようです。
「W216:Toward Excellence: Training the Mind to Enhance Individual and Organizational Performance(卓越性を求めて:個人と組織のパフォーマンスを高めるマインドトレーニング)」でも、マインドのトレーニングによって個人と組織の思考の質と創造性を向上させた事例がツールとともに共有されます。
「TU402:Winning the Global Talent War(グローバルの人材獲得競争に勝利する)」では、次世代のリーダーシップ能力を高める方法論やアプローチとともに、ニューロサイエンスの重要性も語られるようです。

真のグローバル化とは何かを探求するセッションについては、多国籍企業がどのように文化や学習のあり方を統合しながら本質的なグローバル化を模索していったかの事例が共有されています。

「W105:Changing a Name, Building a New Global Culture(社名を変更し、新しいグローバルカルチャーを醸成する)」では、M&A後に組織力・生産性・エンゲージメントを高め、文化統合を成し遂げながらグローバル化していった事例が、「M116:Creating a Global L&D Center of Excellence: Shifting From a Multinational to Global Mindset(グローバル・ラーニング&ディベロップメントCOE(センター・オブ・エクセレンス)の創造:多国籍企業からグローバル企業のマインドセットへの転換)」では、異なる国やマーケット同士で合意を形成する方法や、過度な中央集権にならず共通したラーニングアプローチを導入した事例が紹介されます。

「SU405:Leadership Without Borders: A Global Approach to Growing Leaders(境界のないリーダーシップ:成長するリーダーへのグローバルアプローチ)」では、サムスン電子社において、世界中の人材開発担当者が協働してグローバル統一のリーダーシップ開発プログラムを生み出した事例が紹介されます。ある特定の地域や組織への適応ではなく、統合的な思考や文化を形成していこうという取り組みからは、今後の「グローバル」のあり方を考えるヒントが得られそうです。

また、昨年に引き続き、文化的な多様性にチームや組織がどのように対応するかを扱うセッションがいくつかあります。たとえば、「TU302:Learning Chameleons: How to Develop Multicultural Talent(ラーニング カメレオン:多文化に対応する人材を育成する)」は、自身とは異なる国や文化圏に属する人々の学習を促進するためのツールを紹介します。「W202:Training Internationally: Effective Design and Delivery(グローバル環境におけるトレーニング:効果的なデザインとデリバリー)」では、文化的なラーニングスタイルの差異への対処を学ぶセッションです。
これらのセッションからは、グローバル化の考え方の変化と同様に、特定の地域や文化に適応するのではなく、多種多様な文化に柔軟に対応する人材を育てていこうというトレンドがうかがえます。

その他、グローバルでの取り組み事例として、「M316:How to Raise the Value of Global Leadership Development (With the CFO’s Help!)(グローバルリーダーシップ開発の価値を向上させるための方法論(CFOのサポートを得て!))」において、多国籍企業で2014年から様々な業績改善をもたらしたグローバルのリーダーシップ開発プログラムが取り上げられます。
また、フィリップス社のセッションでは、昨年はラーニングの再定義という形でコーポレート・ユニバーシティーのあり方の変化が示唆されましたが、今年は「TU404:Learning as a Daily Habit: Rapidly Building Competencies(日常の習慣としてのラーニング:コンピテンシーを一気に向上させる)」で、業界のバリューチェーン変革に適応するためのチーム変革や優れた人材育成をどのように行ったかについて、かなり具体的に共有されるようですので、実践へのヒントを得ることができるかもしれません。

ラーニングの測定と分析

本トラックは、ラーニングに関する様々な施策に対する効果測定や、ビジネス成果をより高めるための分析に関するセッションで構成されています。

例年通り、カークパトリックの4段階モデルやROIモデルといった基本的なモデルを紹介するベーシックなセッションや、それをベースにした事例を紹介するセッション、また、昨今のAIやビックデータなどの進展の影響を受けてか、HRの領域にもデータの活用が増えており、今回もそうしたセッションも見受けられます。

ベーシックなセッションとしては、「M212:Cracking the Code for Kirkpatrick Levels 3 and 4(カークパトリックのレベル3と4の暗号解読)」があります。 4段階モデルの理解度を深めながら、特にビジネスの成果に直結するレベル3、4に着目し、実践で生かせるアイデアも学べそうです。
加えて、「TU212:Providing Results That Executives Will Love (エグゼクティブ達が愛する結果の提供) 」では、ROIモデルの提唱者であるジャック・フィリップス氏がヒューマン・キャピタルに対する投資のROIデータや事例等を紹介するようです。

データの活用という観点では、次の2つが注目のセッションです。
「SU412:Going Beyond ROI: Using Learning Metrics to Inform Business Strategy(ROIの向こう側へ:ラーニング指標からのビジネス・ストラテジー)」では、ラーニングデータに加え、ビジネスパフォーマンスのデータと組み合わせ、組織全体へのインパクトを探求するセッションです。
また、「W112:From ADDIE to DADDIE: Welcoming Data Onto Your Learning Team(ADDIEからDADDIEへ:あなたのラーニング・チームへデータを招き入れる)」では、人材開発やそのプロセスを概観しながら、データを仕事に活かすための実践的なプロセスが紹介されるようです。

ラーニングの科学

2014年に新設されたこのトラックでは、主に、心理学、行動科学、神経科学(脳科学)の研究から得られた知見を活用した学習のあり方を変容させるアプローチや取り組みを扱っています。

本トラックにおける全体のセッション数は、2015年の17セッションから22セッションへと増加しています。一方、神経科学に関連したセッション数についても、増加傾向にあります。このように神経科学を扱ったセッション数および割合が昨年よりも高まっていることからも、本トラックは「ラーニングにおける神経科学」のトラックといっても過言ではないと思います。

さて、そうした背景を踏まえ、今年の各セッション概要から見受けられた主な傾向を整理してみると、より良い成果や変化を生み出すための個人の行動変容の促進とチームづくりの促進の2つのセッション群に大別することができそうです。

まず、個人の行動変容の促進に関するセッションとしては、たとえば、「TU304:The Neuroscience of Why Bias Persists and What to Do About It.(バイアスが残り続ける理由とその対処法に関する神経科学)」では、ここ数年、神経科学を活用したタレント・マネジメント支援のコンサルティング会社として、各方面での露出が高まっているニューロリーダーシップ・インスティテュートが登場します。バイアスのかかった意思決定に陥るリスクへの対応について紹介されるようです。

また、このセッションでは、「TU205:The Neuroscience of Change(変化の神経科学)」では、変化へのためらいや変化に伴う疲労を軽減し、変化に対する柔軟性やレジリエンス度を高めるタレント開発について紹介されるようです。また、「TU314 :The Neurobiology of Successful Behavior Change(成功する行動変容の神経生物学)」では、神経生物学の研究のエビデンスに基づいた持続する個人変革のあり方について紹介されるようです。
これらのセッションを通じて、神経科学や神経生物学の研究内容を踏まえた人々の思考や行動の変革を推進するためのアイデアやヒントが得られるかもしれません。

次に、チームづくりの促進に関するセッションとしては、たとえば、「SU111:Neuromanagement Myth-Conceptions and Realities in Creating High Trust Teams
(高信頼チームづくりにおける神経科学の迷信と現実)」では、15年以上に渡る信頼ホルモンと呼ばれるオキシトシンとチームや組織の成果との関係についての研究に基づいた真の神経科学という観点から、より良いパフォーマンス、コラボレーション、トラスト、ウェル・ビーイングを導くリーダーシップの原理が紹介されるようです。

また、「W111:Cognitive Collaboration: Empowering Organizations to Create a Common Language(認知的コラボレーション:組織をエンパワーして共通言語を開発)」
では、人々の差異を理解するための科学的に証明されたアプローチと、その多様性を生かして最適な個人とチームのパフォーマンスを達成する戦略の組み立て方が紹介されるようです。
また、「M101:Changing How people Think to Optimize Team Performance(チーム・パフォーマンスを最適化するように人々の考え方を変える)」では、神経科学の観点から、チーム・パフォーマンスに影響を与えるメンタルモデルを皆で意識し、取り組んでいくことの重要性、変えることの難しさ、対応方法について紹介されるようです。これらのセッションを通じて、より良いチームのづくりの押さえどころや阻害要因への対応のヒントが得られるかもしれません。

最後に、上述した傾向以外で、最近日本でも注目を集めはじめているマインドフルネスに関連したセッションとして、「W308:Liberate Your Genius: Mindfulness for Increased Creativity and Innovation(あなたの天才を解放せよ:クリエイティビティとイノベーション増進のためのマインドフルネス)」があります。本セッションでは、ビル&メリンダ・ゲイツ財団で取り組んだマインドフルネスのプログラムのメリットや生まれた結果について、神経科学との関連を踏まえながら紹介されるようです。

セールス・イネーブルメント

本トラックは2012年に創設され、今年で5年目を迎えます。セールスを取り巻く事象全般を扱っており、セールスを強化し成果を生み出すための、様々なツールやシステム、トレーニング、方法論などに関するセッションで構成されています。

今年度のセッション中では、セールス・トレーニングや効果的なセールスのあり方が大半を占めており、その中で注目したいセッションは、ノバルティス社のディカーソン・ロブ氏が語る「M218:Sales Incentives: What Are We Really Driving?(セールス・インセンティブ:私たちが本当にドライブしているものとは?)」です。

インセンティブがパフォーマンス高めるのではなく、逆にモチベーションを下げているということが、長年の研究から見えてきているそうです。本セッションでは、セールスの目的や他者への利益にフォーカスすることが大事とのことで、どういった内容が語られるか見どころです。
加えて、「TU418:Turning Insights Inside Out(インサイトをインサイド・アウトする)」では、最も効果的であると検証されているビジョナリー・インサイトについて紹介され、インサイトベースのメッセージやコンテンツ開発の方法について議論される予定です。

企業事例としては、アムドックスが「W218:A Sales Enablement Journey(セールス・イネーブルメント・ジャーニー)」の中で、地理的にも離れた環境で、リモートワークを実施しながら、いかにイノベーティブなプロダクトやサービスを展開したのかが紹介されます。
また、「TU318:Using Virtual Coaching Technology to Predict Perfect Training Moments for Your Salespeople(バーチャル・コーチング・テクノロジーを用いたセールス担当者のためのトレーニング時期の完璧なタイミング予測)」では、テクノロジーを駆使して、リアルタイム・コーチングのモバイルパクスの事例が紹介されます。

※事前レポート内のセッション情報は1月18日時点のものです。セッション番号は、変更になる可能性がありますので、最新情報はATDのウェブサイトでご確認ください。

関連するメンバー

私たちは人・組織・社会によりそいながらより良い社会を実現するための研究活動、人や企業文化の変革支援を行っています。

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