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ATD(The Association for Talent Development)

ATD2019事前レポート

ATD2019 International Conference & EXPOが、2019年5月19日~22日に米国ワシントンD.C.にて開催されます。このカンファレンスは、Workplace Learning & Performance(職場における学習とパフォーマンスの向上)に関する世界最大の会員制組織であるATDが、毎年開催しているものです。

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このカンファレンスでは、世界中から集まった先駆的企業や教育機関・行政体のリーダーたちが、現在直面している諸問題にどのように取り組んでいるかを企業や国の枠を超えて学び合います。世界における人材開発の最新動向に触れながら、これからの組織・人材開発のあり方について、多くの人と情報交換や課題の探求をしていく貴重な場であるといえます。

本レポートでは、ATD2019公式ホームページに掲載されている内容を参考に、今年のカンファレンスではどのようなことがテーマになるのか、どのような人が講演を行うのかといった見どころを紹介していきたいと思います。

今年のキーノート・スピーカー(基調講演者)

ATDでは、毎年様々な分野におけるオピニオン・リーダーや有識者、経営者や実践家などによる基調講演が行われます。そして、この基調講演者たちの語る言葉やメッセージに耳を傾けていくと、人材開発や組織開発、マネジメントやリーダーシップのトレンドとして、いま何が起きているかを探る手掛かりを得ることができます。今年は以下の3名によって基調講演が行われます。

オプラ・ウィンフリー  Oprah Winfrey

オプラ・ウィンフリーは、世界的メディアリーダー、慈善家、プロデューサー、女優です。彼女は世界中の人々と類まれな繋がりを構築しており、今日最も尊敬され、称賛を集める人物です。
ウィンフリーは25年にわたり、受賞歴をもつトークショー「The Oprah Winfrey Show(オプラ・ウィンフリー・ショー)」で司会者とプロデューサーを務めるだけなく、チェアパーソン兼CEOとして「OWN-Oprah Winfrey Network」の番組指揮を執ることで、彼女のケーブルネットワーク局を成功に導きました。また、「The Oprah Magazine」と「Harpo Films」の創立者でもあり、2017年にはアメリカCBSニュース「60 Minutes Special Correspondent」で、特派員としてもデビューを果たしています。
映画初出演である「The Color Purple(邦題:カラーパープル)」でアカデミー賞にノミネートされて以降、「Lee Daniels’ The Butler(邦題:大統領の執事の涙)」でも批評家たちから称賛を得、俳優兼製作指揮として参加した「Selma(邦題:グローリー/明日への行進)」は、アカデミー賞を受賞しました。また、TVドラマでも活躍し、HBOフィルム「The Immortal Life of Henrietta Lacks(邦題:不死細胞ヒーラ: ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生)」ではエミー賞にノミネートされているほか、直近では、2018年にエイヴァ・デュヴァーネイ監督により、ディズニー社から映画化された「A Wrinkle In Time (邦題: 五次元世界のぼうけん)」において、Mrs.Which役を好演しています。
2015年、ウィンフリーはウェイト・ウォッチャーズ社の取締役に就任し、2017年には、米国の食品会社クラフト・ハインツ・カンパニーとコラボレーションを発表。スープと副菜に特化した新しい冷蔵食品シリーズ「O, That’s Good」の発売を開始しました。これは化学調味料・着色料を用いず、質の良い材料を使って栄養価の高い定番料理の味を実現しています。これによる収益の10%は、チャリティー団体「Rise Against Hunger」と「Feeding America」に分配され、飢餓からの脱却に向けた活動をサポートしています。
また、同年、料理本『Food, Health and Happiness: 115 On Point Recipes for Great Meals』と『a Better Life and Wisdom of Sundays』を出版しており、いずれも「オプラ本」として、ニューヨークタイムズ社のベストセラー・ランキングで1位を獲得しました。
彼女はまた、2002年12月にネルソン・マンデラ氏のもとへ訪問した際、南アフリカに学校を建設することを約束し、高い学力をもちながらも恵まれない状況下にいる少女たちに教育を提供するため、1億4000万ドル以上の寄付を続けてきました。その結果、この学校の卒業生は、南アフリカや世界中の大学において高等教育を受けることができています。
ウィンフリーは、国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館の創立寄付者でもあります。2018年6月、博物館では「オプラの軌跡:オプラ・ウィンフリー・ショーとアメリカ文化」を開設し、ウィンフリーのこれまで人生や、彼女のトークショーで使われたセット小物および彼女の映画とインタビューで使用した衣装を取り上げ、展示しています。
2013年、ウィンフリーは米国において文民に贈られる最高位の勲章である、大統領自由勲章を授与されました。

セス・ゴーディン  Seth Godin

セス・ゴーディンは、起業家、ベストセラー作家、スピーカーです。世界で最も人気のあるブログの1つを立ち上げたことに加え、『The Dip (邦題:ダメなら、さっさとやめなさい! ~No.1になるための成功法則~)』『Linchpin』『Purple Cow(邦題:紫の牛を売れ!)』『Tribes(邦題:トライブ 新しい“組織”の未来形)』『What to Do When It’s Your Turn (And It’s Always Your Turn)』など、18のベストセラー本を執筆。執筆家・スピーカーとして有名な一方、Squidoo社および、98年にYahoo!社に買収されたYoyodyne社の創業者としても知られています。
 セスは、効果的なマーケティングやリーダーシップから、アイデアを拡散し全体を変革するに至るまでのあらゆることに着目し、世界中の数え切れない人々を触発し、モチベーションの向上に寄与しました。2013年には、3人の専門家しか選出されない、アメリカ・マーケティング協会のダイレクト・マーケティング部門で、殿堂入りを果たします。さらに驚くべきことに、2018年5月にはマーケティング部門での殿堂入りも果たし、彼は両方の部門で殿堂入りを果たした唯一の人物といわれています。

エリック・ウィテカー  Eric Whitacre

エリック・ウィテカーは、グラミー賞を過去に獲得した経験をもつ作曲家であり、指揮者であり、画期的なバーチャル合唱Deep Fieldのクリエイターです。ネクサスアート&テクノロジーで働いていることでも知られており、彼はここでリーダーシップやコラボレーション、コミュニティ構築、創造的なプロセスの構築について、深く普遍的な見識を養ってきました。人を惹きつける魅力に溢れ、近日発表予定のNASAのプロジェクトに指名されたほか、2016〜2017年の2年間にわたり、ロサンゼルス・マスター・コーラスの「アーティスト・イン・レジデンス(滞在製作)」にも任命されています。
彼はまた、テクノロジーを駆使したイノベーティブな音楽アレンジの担い手としてもよく知られています。彼が始めた画期的なバーチャル合唱団は、世界中で数千万人の耳に届くこととなりました。美しい構成と華やかな雰囲気、そして想像を駆使して練り上げられた彼の音楽は、「テクノロジーは人のつながりを育み、芸術と人間の表現へのアプローチを広げることができる」という彼のメッセージを実証しています。直近の作品「VC5: Deep Field(深宇宙)」は、ハッブル宇宙望遠鏡が撮影に成功したハッブル深宇宙(Deep Field)にインスパイアされており、エリックは世界各地の歌声を1つにまとめ上げるため、世界中のオーディエンスを共同製作者として取り込めるアプリを思いつきました。重要な節に劇場は暗くなり、リスナーのスマートフォンから出る電子音と光が声を浮かび上がらせ、宇宙然とした空気をつくり出します。バーチャル合唱団は、動画を介して、インターネット上の何千もの人々の音声を繋げるもので、発表されてすぐ国際的に大きな旋風を巻き起こし、話題となりました。この前例のない新しい取り組みは、人種や国籍、物理的距離、身体障害や心のハンデの有無を超え、また抑圧的な政治体制の下に置かれている人々でさえも垣根を超えて繋がり合うことを可能にしました。また、互いにオーディションやリハーサルを行ったり、技術的な問題を解決するなど、自己組織化を促しました。このたくさんの「魔法のスフィア(球)」は、関わる人々に繋がりや所属意識、達成感をもたらし、インクルージョンやグローバルでのチーム作りにおいて、どのようにしたら多様な人々が共通の目標に向かって協働する意欲をもてるのかのヒントを示唆しています。
エリックが生み出す科学と芸術の交流は、王立音楽大学のパフォーマンス科学センターとインペリアルカレッジとの共同研究にも及び、ストレス軽減と免疫システム構築における音楽の役割を証明することにも貢献しています。彼が音楽を始めた時期は比較的遅く、大学1年生のとき、合唱グループに参加し、モーツァルトのレクイエムを経験します。彼はその中で合唱に感情的な繋がりを見出し、音楽に魅了されることとなりました。すぐに彼は自身の作品をつくり始め、やがて名門ジュリアード音楽院への入学を果たします。エリックはステファン・シュワルツ、アニー・レノックス、ローラ・マヴーラをはじめとして、世界的に著名なアーティストやオーケストラへ楽曲を提供しています。彼が書き下ろしたミュージカル作品「Paradise Lost: Shadows and Wings」は、ハロルド・アーレン賞とリチャード・ロジャース賞を受賞しています。また、彼のアルバム「Light & Gold」はグラミー賞で最優秀合唱パフォーマンス賞を獲得。続くアルバム「Water Night」は、iTunesクラシック音楽チャートデイリーランキングで1位を獲得しました。彼は、指揮者としても世界五大陸でパフォーマンスを行い、シドニー・サセックス大学、ケンブリッジ大学において、コンポーサー・イン・レジデンスに任命され活動していました。

※キーノート・スピーカーの写真は、ATDのウェブサイトから引用しています。

ATD2019のトラックとセッションの見どころ

ATDでは、基調講演の他に数多くのコンカレント・セッションが開催されます。4月8日時点で公開されている情報によると、今年は全体で約480のセッションおよびワークショップが行われる予定です(※セッション数は常に更新されるため、今後セッション数が増減することもあります)。また、同時並行で開催されるEXPOにおいては、例年400以上のブースの出展が見込まれ、学習とパフォーマンスの向上をサポートする様々な商品やサービスが紹介されます

以下に、今年掲げられた15個のセッション・トラックおよび各トラックのセッション数を紹介します。

・Career Development(キャリア・ディベロップメント):17セッション
・Global Perspectives(グローバル・パースペクティブ):13セッション
・Government(ガバメント):8セッション
・Healthcare(ヘルスケア<医療機関>):9セッション
・Higher Education(高等教育):4セッション
・Instructional Design(インストラクショナル・デザイン):37セッション
・Leadership Development(リーダーシップ開発):46セッション
・Learning Measurement & Analytics(ラーニングの測定と分析):17セッション
・Learning Technologies(ラーニング・テクノロジー):36セッション
・Management(マネジメント):12セッション
・Managing the Learning Function(ラーニング・ファンクションのマネジメント):15セッション
・Sales Enablement(セールス・イネーブルメント):12セッション
・Science of Learning(ラーニングの科学):31セッション
・Talent Management(タレント・マネジメント):30セッション
・Training Delivery(トレーニング・デリバリー):29セッション

※セッション数は、2019年4月8日現在のものです。

以降、各トラックのセッションの見どころを紹介します。

キャリア・ディベロップメント

本トラックでは、自分自身のキャリア開発および人々のスキルや専門知識の習得の支援に関心がある、学習の専門家の方々を対象とした、キャリア開発の最新の傾向やトピックが扱われています。

今年の特徴の1つとしては、職場におけるリアルワークを通じたキャリア開発に焦点を当てたセッションが、複数見受けられます。
たとえば、「TU120 Help Them Grow: Building a Development Culture(成長を手助けする:ディベロップメント・カルチャーの構築」では、マネジャーが日常の仕事の中で、キャリアに関する会話(カンバセーション)をどのように実践し、メンバーを支援していくべきかについて語られるセッションです。このセッションは、キャリア開発の権威の一人であり、ATDのレジェンド・スピーカーでもあるビバリー・ケイ氏と、コンサルタントとして数百組織において、学習を通じた組織のパフォーマンス向上を支援するジュリー・ウィンクル・ジュリオーニ氏が、スピーカーを務めます。2人の共著書である『Help Them Grow or Watch Them Go』は、米国のアマゾンでもベストセラーとなっており、今年(2019年)に第2版も発売されています。
また、「M313 Career Crossroads: Moving Forward With Confidence(キャリアの交差点:自信を持って前進する)」は、働く人が職場で課題を乗り越え、キャリアの交差点を効果的に渡っていくための考え方とスキルが語られます。スピーカーのビビアン・ブレイド氏は、昨年ATDを通じて『Work the Problem』を出版しており、その内容について語られるようです。

加えて、組織にキャリアを委ねるのではなく、自分自身でキャリアに責任をもち、構築していくことが求められる経済環境を背景にした、キャリア開発のセッションが複数あります。
「M218:Going Solo? Considerations and Conundrums of TD Entrepreneurship(一人で行く? TD起業家精神の考察と難問)」では、インターネットを通じて、単発の仕事を受注する働き方によって成り立つ経済(ギグエコノミー)を背景に成功した起業家の事例が紹介されるセッションです。スピーカーとしては、リーダーシップやチームビルディングのコンサルティングを提供するTalentGrowのCEO兼創業者のハーレー・アズレイ氏と、前出のビバリー・ケイ氏が登壇します。独立や起業を考えるTD専門家の人たちが注目するセッションとなるかもしれません。
「TU108:Credentials: Currency for the New Talent Economy(資格認定:新しいタレント・エコノミーのための通貨」は、自動化やテクノロジーの急速な変化を背景にした新たなタレント・エコノミーにおいて、資格を取得することの新たな意味や価値について言及されるようです。変化の激しい社会や組織に素早く適応し、さらにチャレンジを重ねながら自身のキャリアを開発していくということについて、何らかの示唆が得られることを期待したいセッションです。

その他に注目したいセッションとしては、世界的に有名なリーダーシップ開発機関であるDDI(Development Dimensions International)のCEOテイシー・バイハム氏が登壇する「M108:Amplify: Power Moves for Women and Their Allies to Ignite Impact(アンプリファイ[拡大]:女性とそのアライたちが影響力を発揮するためのパワームーブ)」が挙げられます。女性のキャリア開発をテーマとしたセッションは、例年、複数行われており、同氏も昨年まで「#LeadLikeAGirl」のムーブメントを紹介し続けていましたが、今年はタイトルを変えたようです。どういった発表をしてくれるのか、期待が集まります。なお、今年のセッションでは、女性個人のキャリアだけに着目するのではなく、女性のキャリア開発を通じて、ジェンダーに平等な職場づくりをどのように行うかについても言及されるようです。ダイバーシティ&インクルージョンの観点からも、注目してみたいセッションといえます。

最後に、「SU401:What Do You Want to Do When You Grow Up? Discovering Your Purpose(成長したとき、あなたは何をしたいですか? あなたのパーパス(目的)を発見する)」も注目するセッションとして挙げたいと思います。このセッションは、自分自身を俯瞰して見るパーソナル・マインドマップを作成し、互いにフィードバックし合うことを通じて、自分自身のパーパスを探求し、実際にその声明文を作成してみるセッションです。昨今、変化の激しいビジネス環境の中で、組織のパーパスと、社員一人ひとりのパーパスを繋げることの重要性が高まってきているといわれており、その実現に向けたヒントが得られるセッションかもしれません。

グローバル・パースペクティブ

本トラックは、昨年までのグローバル・ヒューマン・リソース・ディベロップメントに代わって、今年新設されたトラックです。グローバル・ヒューマン・リソース・ディベロップメントにおいては、米国以外の企業の事例紹介が多かった印象がありますが、本トラックでは、「グローバルなトレーニングの参加者に対応した研修デザイン」や、「グローバル企業のトレーニング展開」「グローバルなチームをマネージするリーダーに必要なスキル」といったように、グローバルで共通する課題やチャレンジをテーマとして扱う傾向が見られます。本トラックのセッション数は13と、他のトラックと比較すると少なめではありますが、新たなトラックの中で、どんな発見やトレンドを見られるのか、楽しみにしたいと思います。

本トラック全体として一番多く見受けられるのは、「グローバルなチームをマネージするリーダーに必要なスキル」を扱ったセッションです。具体的には、多文化チームにおけるコミュニケーションについて語られる「M202:Let's Play! Solving Complex Communication Challenges When Training Global Teams(遊びましょう! グローバルチームをトレーニングする際の複雑なコミュニケーション課題の解決)」や、ストーリーテリングを使って、グローバルチームをマネージする「SU217:Think Disruptively: How Storytelling Can Enhance Mentoring, Coaching, and Leadership Development(破壊的に考える:ストーリーテリングがメンタリング、コーチング、およびリーダーシップ開発をどのように強化できるか)」などがあります。また、「M309:Digital Fluency: Essential Skills for the Globally Connected Workplace(デジタルを使いこなす:グローバルにつながった職場で欠かせないスキル)」では、地理的に離れたチームをマネージするために、デジタルツールを使いこなすリーダーとなる必要性が語られます。これらのセッションからは、グローバルチームに限らず、多様なバックグラウンドをもつメンバーのチーミングのポイントを学ぶことができるかもしれません。

また、「グローバルなトレーニングの参加者に対応した研修デザイン」というテーマでは、多文化チームのチームビルディングについて触れる「SU200:7.5 Dos for Training Global Teams(グローバルチームをトレーニングするための7.5のDo)」や、多様な研修参加者に対応したデザインとデリバリーについて語られる「TU304:Train the Trainers: How to Design and Deliver for a Multicultural Audience, at Home and Overseas(トレーナーを養成する:自国でも海外でも、多文化な参加者に応じたデザインとデリバリー)」があります。これらのセッションでは、多様な人々に相対するためのより具体的なティップスが得られるようです。

「グローバル企業のトレーニング展開」をテーマとして扱っているセッションの中で、現地でも注目を集めそうなのは、スターバックスやセールスフォース・ドットコムなど、米国の大企業の事例を聞くことができる「M203:5 Proven Methods to Measure the Impact of Training From 5 of the Biggest Companies in the U.S.(米国の5大企業からのトレーニングの影響を測定するための5つの実証済みの方法)」です。世界中に展開する大企業の取り組みからは、多くの示唆が得られるかもしれません。また、他のトラックでも注目を集めるAIや機械学習の具体的な活用方法を扱う「SU300:Implementing Machine Learning and AI in Learning---Global Cases and Best Practices(機械学習とAIの学習への実装---グローバルの事例とベスト・プラクティス)」にも、注目したいところです。

その他、グローバルな企業におけるカルチャー変革の取り組みとしては、世界第3位のホテルチェーンの事例である「W202:Using the Pokémon Principles to Successfully Transform an Organization(ポケモンの原則を使って組織を変革する)」といったセッションなどがあります。こうした具体的な事例からもヒントを得ることができそうです。

ガバメント

本トラックでは、主に、連邦政府および各州のガバメント(政府組織)での事例や取り組みを紹介しています。毎年6セッションほどの共有がありますが、今回の開催地がワシントンD.C.ということもあり、本年は例年よりもセッション数が増加し、9セッションが登録されています。
その中で興味深い事例紹介としては、「GOV400:Learning as a Cultural Catalyst in Government(政府の文化的触媒としての学習)」と、「GOV700:Building a Servant Leadership Culture Within Government Through Leadership Development Initiatives(リーダーシップ育成を通じた政府内でのサーバント・リーダーシップ文化の構築)」が挙げられます。GOV400では、米国のテネシー州政府が、官僚的でエンゲージメントの低い行政組織の典型的なカルチャーをラーニングカルチャーに変えた事例が共有されます。このセッションで紹介される事例は受賞歴があり、スピーカーは数々のカンファレンスで登壇しています。また、GOV700は、ワシントンD.C.から車で1時間弱にあるメリーランド州政府の行政組織で行われた、サーバント・リーダーシップの啓蒙と職員のエクスペリエンスの向上についての事例が共有されます。地元ならではの雰囲気で共有が聞けるかもしれません。加えて、「GOV300:Don't Shoot: When Training Gets Weaponized(撃ってはいけない:訓練が武器になるとき)」では、SWAT(特殊部隊)のチームメンバーとして26年間活動した経験と、そこでリーダーとして現場を指揮した学びについて、TEDのスピーカーであり、書籍も出版しているチップ・フス氏が共有します。このセッションでは、米国ならではのリーダーシップやチームビルディングのあり方について触れることができるかもしれません。

インストラクショナル・デザイン

このトラックには、組織における学習の計画、設計およびトレーニング開発に携わる人々にとって、具体的な支援ツールやティップスを得られるセッションが集まっています。

セッション・ディスクリプション全体を見ると、この領域で使われている言葉が明らかに変わってきていることが見受けられます。たとえば、Visual、Infographics、Design Thinking、Ecosystems、Learning Journey、Agile、Data、Learner eXperienceなどのキーワードが多く使われているようです。こうしたことから、従来的なインストラクショナル・デザインの枠組みを超えて、ラーナーのエクスペリエンスをいかに高めていくかに焦点を絞ったセッションが、メインストリームになりつつあることを実感します。

具体的なセッションをいくつか見てみると、たとえば「SU413:Co-Designing High-Performance Ecosystems(ハイパフォーマンス・エコシステムのコ・デザイン)」では、学習者が高いパフォーマンスを生み出すためのエコシステムを可視化し、協働でデザインしていくためのフレームワークが紹介されます。パフォーマンス・コンサルティングとデザイン思考の手法を組み合わせて、全体のエクスペリエンスをいかに構築していくかといったポイントが興味深いといえます。

また、「M114:Collaborative Workflow for High Regulation, High Volume, and High Velocity(高規制、大容量、及び高速のための協働ワークフロー)」では、アジャイルやリーンの考え方および手法を適用したコンテンツ開発のあり方がテーマとして挙げられています。従来型のADDIEモデルを超えた開発手法に注目してみたいところです。

「TU105:Data + Content + Technology + People = The Formula for Personalized Leaning(データ+コンテンツ+テクノロジー+人=個別化学習のための公式)」では、近年キーワードとして取り上げられることも多い、Personalized Learningがテーマとなっています。ワークプレイスでのエクスペリエンスをいかに個別化したものにしていくのか、データやテクノロジーを生かして、適切な人に、適切なサポートを、適切なタイミングで届けるアプローチをいかに確立し、スケールしていくのかに注目してみたいと思います。

「W210:2020 Leadership: Creating Innovative Learning Journeys That Sticks!(2020年のリーダーシップ:継続する革新的な学習の旅を創造する!)」では、学習を一時的なイベントとして捉えるのではなく、継続するジャーニーとして捉え、学習者がエンゲージし続けるためのプロセスを構築するための方法論が紹介されます。具体的にどんな方法やティップスが紹介されるのかが楽しみなセッションです。また、「SU409:Good Bye Learning Events. Hello High-Performance Learning Journeys(さようなら、ラーニング・イベント。 こんにちは、ハイパフォーマンスな学習の旅)」でも、同様に様々な媒体を活用しながら、ラーニング・ジャーニーをどう築いていくのかが紹介されるようです。

そして、ここ数年は、学習コンテンツのビジュアルにフォーカスしたセッションも散見されます。「SU103:Make Powerful Infographics Fast!(パワフルなインフォグラフィックを素早く作ろう!)」「SU111:Crash Course in Visual Design(ビジュアル・デザインのクラッシュコース)」「M110:Create Engaging Learning Experience Through Visual Design(ビジュアル・デザインを通して魅力的な学習体験を創造する)」などが、代表的なセッションとして挙げられます。良質なラーナー・エクスペリエンスを生み出していく上で、ビジュアルが果たす役割がますます高まる今、こうしたセッションから学べるところも多くあるように思います。

以上、ここまでインストラクショナル・デザインのトラックの見どころを紹介してきました。全体を通して、変革の時代の中でインストラクショナル・デザイナーとしての役割やアプローチをいかに変革していくかが模索されるような、探求の機会になるといえるかもしれません。

リーダーシップ開発

本トラックにおいては、リーダーシップ開発プログラムのデザイン、リーダーのあり方、より効果的なリーダーシップを発揮するために必要となるスキルや知識の習得といった、リーダーシップに関する様々なテーマが扱われます。ATDのトラックの中でも、毎年セッション数が多く、注目を集めるトラックであるといえるでしょう。

今年も46のセッションが予定されており、数としてはおおむね例年通りといえそうですが、扱われるテーマやトレンドは、変化してきているようです。昨年は、脳科学やマインドセット、組織文化についてのセッションが多かったようです。今年のセッションを見てみると、明確なテーマと言い切れるものはありませんが、あえて分けるなら2つくらいの傾向に分類することができそうです。1つ目は、昨年(2018年)ATD全体の文脈として流れていた「ヒューマニティ」に関連がありそうなセッション、そしてもう1つは「高い価値を生み出すリーダーとしてのスキル」についてのセッションです。

「ヒューマニティ」に関連したリーダーシップのセッションでは、特に信頼、人間らしさ、セーフティ、謙虚さ、EQといったキーワードが見られ、リーダーが等身大の人間らしさで他者と関係性を築いていくことで、エンゲージメントやパフォーマンスを高めることができるという前提に基づいたセッションが多く見受けられます。

具体的には、「TU109:The Trifecta of Trust(信頼の3つの行動)」では、ATDで常連のスピーカーであるジョー・フォークマン氏によって、8万7千人のリーダーを対象とした調査から明らかになった、リーダーとしての信頼を高めるための3つの行動について発表されます。他にも、「TU206:Heart--Shaped Leadership: Shifting To Being a Love--Based Leader(ハート型のリーダーシップ:愛を基盤としたリーダーへのシフト)」「M215:The Dangerous Leader: Lessons on Leadership Arrogance and Humility(危険なリーダー:リーダーシップの傲慢と謙虚さについての教訓)」「M320:Become a More Emotionally Intelligent Leader: Awaken to Your Mindset(よりEQの高いリーダーになる:自らのマインドセットを意識する)」「TU313:7 Steps for Building Interaction Safety in Your Workplace(職場でインタラクションの安全性を高めるための7つのステップ)」「W300:Beyond Profits: Applying Conscious Leadership for Deep Impact(利益を超えて:深い影響のためのコンシャス・リーダーシップの適用)」などがあります。

次に、「高い価値を生み出すリーダーとしてのスキル」を扱うセッションでは、本トラックで毎年多く扱われる「エンゲージメント向上」に必要なスキルに触れる「W216:Six Key Leadership Skills to Create a Culture of Engagement(エンゲージメント文化を創造するための6つの重要なリーダーシップスキル)」や、「SU202:Resilience: Refocusing Energy in Times of Change(レジリエンス:変化の時代におけるエネルギーの再集中)」「M316:Develop Conflict Resolution Ninjas—Attain New Levels of Collaboration(紛争解決のためのニンジャを開発する―新たなレベルのコラボレーションを実現)」「SU416:Using Strategic Thinking to Become a Strategy Superhero(戦略的思考を用いて戦略のスーパーヒーローになる)」など、今年は様々なスキルについて触れられている印象です。
また、スキルとはいえませんが、ウェルネス(健康)をテーマとした「SU216:Leading Well: How Wellness Efforts Can Enhance Your Leadership Development Initiatives(ウェルネスでリードする:ウェルネスの取り組みがリーダーシップ開発をどのように向上させることができるか)」というセッションも見受けられます。

他にも、「TU300:The Eight Levers of High-Performing Teams(ハイパフォーマンス・チームの8つのレバー)」では、昨年基調講演を行ったマーカス・バッキンガム氏が所属するADP社(2017年にマーカス・バッキンガム社を買収)から、メンバーの強みをベースとしたチーム・マネジメントの方法について扱うセッションがあります。また、ATDのレジェンド・スピーカーである、ジャック・ゼンガー氏「M109:Identify and Develop Leadership Strengths That Matter!(重要なリーダーシップの強みを特定し、育成する!)」、ケン・ブランチャード氏「TU103:Leading at a Higher Level With Servant Leadership: Four Steps to Success(サーバント・リーダーシップによって、より高いレベルでリードする:成功への4つのステップ)」などが例年通り登場する予定で、注目すべきセッションといえるでしょう。

ラーニングの測定と分析

このトラックでは、トレーニングの効果性を高めるためのデータの取り方、L&DのROIの適切な測定の仕方、データを活用した効果的なコミュニケーションの仕方についてのセッションを扱っています。
例年同様、この分野を築いた4段階評価モデルのカークパトリックや、ROIモデルのフィリップスらのセッションが複数見られます。たとえば、ジャック・フィリップス氏が登壇する「TU100:ROI in Training: Fact, Fad, or Fantasy(トレーニングのROI:事実、流行、またはファンタジー)」では、ROIの歴史、使用方法、懸念等の基本的な全体像が共有されるようです。
また、このトラックの今年の特徴としては、ブレンド・ラーニングへの注目が高まる中で、Eラーニング、マイクロラーニング、インフォーマル・ラーニングの評価を扱うセッションが複数あるということが挙げられます。たとえば「SU204:Modernizing Learning Measurement(ラーニングの測定を現代化する)」は、ここ数年の学習環境の変化に応じた、マイクロラーニングやインフォーマル・ラーニングの測定を扱うセッションです。
また今年は、学習の測定や分析をより効果的に行うために、どのように「データ」を扱うかについて言及するセッションが散見されます。ビッグデータの活用が高まる中、こうしたテーマへの関心は、今後もますます増えていくのかもしれません。
特に「M107:The Future of Learning Data and Analytics(ラーニングデータとアナリティクス(分析)の未来)」は、xAPIによるEラーニングの専門家、データサイエンティスト、ラーニング・テクノロジー企業のCOO等、アナリティクスの専門家5名によるパネルディスカッションが行われるセッションであり、幅広い観点から、データを活用した学習の変革が検討される可能性のある、注目したいセッションです。
また、「SU102:Talent Development Reporting Principles: Your Guide to Measurement and Reporting for L&D(タレント開発リポートのための原則:L&Dのための測定・報告のガイド)」も、データをテーマとしたセッションで、データをどう収集し、どう取り扱ったらよいのか、いくつかのタイプを紹介するセッションのようです。スピーカーのこれまでの実践や研究から生み出されたフレームワークの紹介があるとのことで、今後、データの効果的な取り扱い方を検討するにあたって、何かしらの示唆が得られるかもしれません。

ラーニング・テクノロジー

本トラックでは、最先端のテクノロジーを用いた新しい学習の姿や、学習を効果的に行う方法、事例などを取り上げています。AI(人工知能)をはじめとしたテクノロジーの目覚ましい発展に伴って、ラーニングとテクノロジーの関係は切っても切り離せない関係となり、ATDにおいても注目が集まる最大規模のトラックとなっています。その中でも、一昨年から、バーチャル・リアリティー(VR)/拡張現実(AR)のセッションが多数開催され、今年も、顧客サービスに関する研修で応用されたVRの事例や、ARを実践していくためのポイントなどが紹介されるセッションが予定されています。また、チャットボットやブロックチェーンなどの新しいテクノロジーを応用したセッションも紹介されており、ラーニングを高めていく上で、どのようにテクノロジーが使われているかなど、進化を垣間見ることができるのか楽しみです。

また、本トラックでは、毎年、ラーニングとテクノロジーの最新のトレンドについて紹介するセッションも開催されています。特に注目されるデイビッド・ケリー氏は、今年で5回目の登壇となるようです。テクノロジーの進化によりL&Dが直面している変化と将来の展望について、毎回新しいテクノロジーのトレンドを共有してくれる同氏は、「TU310:The Now and Next of Learning and Technology in 2019(2019年の学習と技術の現在とこれから)」というセッションを予定しています。また、ATDとも共同研究している、老舗の大手調査会社i4cpによるセッションも注目かもしれません。企業での現在および将来のLMSの活用に関する調査結果ついて、「TU114:Is the LMS Dead? Highlights From the Latest ATD Research(LMSは死んでいますか?最新のATD研究からのハイライト)」というタイトルで共有があります。

次に、近年注目が高まっているテクノロジーと関連するセッションについて、次の6つのキーワードに分け、以下に紹介します。
(1)バーチャル・リアリティー(VR)/拡張現実(AR)
(2)AI(人工知能)
(3)チャットボット
(4)RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)
(5)ゲーミフィケーション
(6)xAPI(Experience API)
(7)ブロックチェーン

1つ目は、バーチャル・リアリティー(VR)/拡張現実(AR)に関するセッションです。2017年頃から、VR/ARについて取り上げるセッションが増え始めましたが、今年は、実際に企業で応用されている事例が注目を集めそうです。たとえば、「W107:It's Not Hype---It's Happening: VR's Impact on L&D(それは誇大宣伝ではない---それは起こっている:L&Dに対するVRの影響)」では、学習とトレーニングに活用したVR/ARの事例について、FedEx、Verizon、Walmartの3社から共有されるようで、ビジネスでの応用について知る機会となりそうです。その他にも、VR/ARに関しては、「W303:360°of Separation---A New Angle on VR for Learning(360°の分離 - 学習のためのVRの新しい見方)」や、「SU306:Is Your Company Ready for Augmented Reality Learning?(あなたの会社は拡張現実学習の準備ができていますか?)」などがあります。

2つ目は、AI(人工知能)に関するセッションです。小・中・高校にAIを使った学習プログラムを提供しているALEKS社からの「TU317:The Intelligence Race: Humans vs. Machines(知性の競争:人間vs機械)」では、人工知能が進化・発展する時代に、人間がいかに学んでいくかについて、AIの実装事例や可能性を交えながら探求できる機会となりそうです。

3つ目は、チャットボットに関するセッションです。チャットボットとは、「対話(chat)」と「ロボット(bot)」という2つの言葉を組み合わせたもので、顧客とのコミュニケーションの接点で注目を集めています。通常は、データベースに想定されるコミュニケーションを登録し、それに応じて、チャットボットが返答します。「SU403:A Chat Bot Case Study: The Future of Learning Transfer and Evaluation(チャットボットのケース・スタディ:ラーニング・トランスファーと評価の将来)」のセッションでは、チャットボットをコーチングに応用した事例が紹介されます。

4つ目は、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)に関するセッションです。RPAとは、ロボットによる業務の自動化・効率化の取り組みであり、定形作業をソフトウェア型のロボットが代行します。ここ数年、日本においても言葉として使われはじめ、注目が高まりつつあります。世界4大コンサルティングファームの1つ、EY(アーンスト・アンド・ヤング)から、「SU201:Leveraging Automation to Deploy Scalable Learning Programs and Increase Learning Function Efficiency(自動化を活用してスケーラブルな学習プログラムを展開し、学習機能の効率を向上させる)」のセッションで、RPAに関する知識や事例、また、RPAを最大限に生かすポイントなど、実践的なナレッジが紹介されるようです。RPAがどのように使われるのか、リアリティーに触れる機会になるのではないでしょうか。

5つ目は、ゲーミフィケーションに関するセッションです。「TU204:Beyond Gamification: Think Like a Game Designer to Create Engaging, Meaningful Instruction(ゲーミフィケーションを超えて:魅力的で意味のあるインストラクションを作成するために、ゲームデザイナーのように考える)」では、これまでのATDのカンファレンスにおいて5回以上登壇している、ブルームズバーグ大学の教授であるカール・カップ氏から、ゲーミフィケーションによって、学習者のやる気を起こし、リテンションを高める方法について紹介があります。また、企業内での導入事例として、「W203:Mobile Business Sim Game: A Case Story(モバイルビジネス・シム・ゲーム:ケースストーリー)」では、世界最大規模の従業員を抱えるWalmart社における店頭での仕事の進め方やイベントなどのリアルビジネスをゲーム化したコンテンツやその導入の背景、現場の反応などについて紹介があります。

6つ目は、xAPI(Experience API)に関するセッションです。xAPIというテクノロジーは、多様な教育関連の経験履歴の取得ができるデータベースを標準化し、様々な角度から個人や組織の学習を分析することを可能とするものであり、ATDでは昨年くらいから注目度が高まりました。xAPIに関する賞を多数受賞しているdominKnow Learning Systems社による「W217:The ABCs of xAPI(xAPIのいろは)」では、xAPIの基本を踏まえ、実際の組織の問題への応用について共有されるようです。その他の関連のセッションとしては、「SU104:Building the xAPI Ecosystem of Your Dreams(あなたの夢のxAPIエコシステムを構築する)」や、「SU414:Design With the End in Mind: Getting Measurable Results With xAPI(目的を念頭において設計する:xAPIで測定可能な結果を得る)」があります。

7つ目として、今社会的に注目度が高まっている「ブロックチェーン」に関するセッションも見受けられました。具体的には、「SU303:L&D as the New Kid on the Blockchain?(最新のブロックチェーントレンドはL&Dか?)」があります。このセッションでは、ブロックチェーンの基本的な技術と学習環境への適用について取り扱うセッションのようです。

マネジメント

本トラックは、2017年から新たに登場したものであり、昨年まではタレント・マネジメント、チェンジ・マネジメント、セルフ・マネジメント、プロジェクト・マネジメントなどが主なトピックとして取り上げられていました。

今年は、マネジメントをメインテーマに、合計11のセッションが登場しています。各セッションでは、アカウンダビリティ、パフォーマンス・マネジメント、エンゲージメント等をトピックに据え、大きな潮流としては、マネジャーが「どうマネジメントしていくか」ではなく、「マネジメントそのものをどう捉えていくか」について探求が行われるといえそうです。

本トラックの中では唯一、「TU303:Bride the Gap in Accountability; Skills to Foster Workplace Performance and Commitment(アカウンタビリティのギャップを埋める:職場のパフォーマンスとコミットメントを促進するスキル)」が同時通訳セッションとして登場しています。VitalSmart社の共同設立者である登壇者は、著名な社会科学者であり、かつニューヨークタイムズベストセラー作家でもあります。著書『Crucial Conversations(クルーシャル・カンバセーション −−重要な対話のための説得術)』など、何冊かが日本でも翻訳され、出版されています(パンローリング社) 。本セッションではアカウンタビリティを軸に、望まない問題が立ちはだかったときに、いかに早く、うまく、それに対して取り組むかについて紹介していきます。

また注目のセッションとして、昨今関心の高いパフォーマンス・マネジメント革新の分野でも重要とされているフィードバックについて、科学的に解説しているタムラ・チャンドラー氏の「SU110:Why We Fear Feedback, and How to Fix It(なぜフィードバックを恐れるのか、そしてその改善方法)」(2019年6月、同タイトル書籍発刊予定)が挙げられます。
2018年7月に日本でも翻訳出版された、同氏の『時代遅れの人事評価制度を刷新する~そのパフォーマンス・マネジメントは価値を生み出していますか?』(原題:How Performance Management is Killing Performance - and What to Do About it)に続く新しい知見が得られるかもしれません。

さらに、米国で2010年から続く人気テレビドラマを題材にしたセッションも登場しています。ゾンビが存在する社会を描くドラマ「The Walking Dead」の原作本の著者ジェイ・ボナンジンガ氏によるセッションです。「M112およびTU113:Capative, Engage, and Unfluence : Storytelliung Lessons From The Walking Dead(魅了し、エンゲージし、そして影響を及ぼしなさい:『ウォーキング・デッド』からのストーリーテリングに関する教訓)」のセッションでは、自身によって語られる「ナラティブ」の力を使い、目的、情熱、意図をもった伝達コミュニケーションの方法などを学べそうです。

本トラックでは、コンサルタントやCEO、作家など、様々なバックグラウンドをもつスピーカーが、事例、ステップ、会話モデル、データといった多様な観点からマネジメントを捉え、紹介しています。それらのセッションにおける実践的なプレゼンテーションから、日常の中で日々直面する課題に対するヒントが提示されることが予想されます。

ラーニング・ファンクションのマネジメント

このトラックは、今年新設された注目のトラックです。まずは、ATDのトラック解説をそのまま紹介します。
「トレーニングが単純な発注・請負のアプローチから離れ始めているため、(組織内の)学習機能をマネージするのは、近年ますます複雑になっています。そのようなラーニング・ファンクションを管理する人々の責任範囲には、組織開発やプロジェクト管理、タレント開発とビジネス目標とのアライメント、学習アイデアや傾向の理解、トレーニング以外のソリューションの専門性(パフォーマンス・コンサルティングやコーチングなど)を養うことなどが含まれてきます」。
こういったATDの解説を参考に、実際にトラック内のセッションを見ていくと、傾向は大きく2つに大別されました。以下、観点別に紹介していきます。

まずはタイトルの通り、タレント開発担当者(TD)やラーニング&ディベロップメント担当者(L&D)の役割(とりわけその進化)について言及するセッションが散見されます。具体的には、ビジネス戦略とタレント開発のアライメント、そして、TD(タレント開発担当者)として、経営陣との議論のテーブルにどう座り、どうコミュニケーションをしていくのかという観点について、語られるようです。こうしたテーマは過去のセッションでも取り上げられていたものの、初めてトラックとしてまとめられ、今年はひときわ存在感を高めています。たとえば、「SU311:Earn Your Seat at the Table With a Microlearning Strategy(マイクロラーニング戦略で経営陣との議論のテーブルにつく)」「TU405:What Your CEO Expects You to Know: Business Acumen to Build Your Credibility, Career, and Company(あなたの会社のCEOが、あなたに知ってほしいと思うこと:信頼、キャリア、そして会社を築くためのビジネス感覚とは)」「W104:Design Your Department to Deliver Strategic (Not Only Tactical) Results( (戦術的だけでなく)戦略的な結果を生むように部署をデザインする)」といったセッションは、こうしたテーマに基づいたものといえます。
また、同様の文脈で特筆すべきセッションは、レジェンド・スピーカーであるエレイン・ビーチ氏の「M206:Evolving Your TD Role as a C-Suite Trusted Adviser(あなたのタレント開発としての役割を、経営陣の信頼できるアドバイザーに進化させる)」です。氏はこれまで、キャリア開発や新しいテクノロジーを積極的に取り入れる形のインストラクショナル・デザインに関するセッションをもつことが多かったため、今あらためてTDの役割についてどのように言及するのか、楽しみなセッションです。

別の観点では、TDやL&Dがデジタルトランスフォーメーションやリスキルにどのように向き合うかについて、知見が得られそうなセッションが散見されました。特に「M106:Learning in the Age of Immediacy: How the Digital Transformation Transforms Training(イミディアシー<即時性>時代における学習:デジタルトランスフォーメーションはトレーニングをどのように変えるか)」には注目したいところです。このセッションのスピーカーであるブランドン・カールソン氏は、昨年セッション内で、Fotune500における投資の割合(技術に対する投資が60%、翻ってトレーニング、ラーニングディベロップメントに対する投資が3%)について警鐘を鳴らしていました。リスキルの必要性がいっそう叫ばれる今、ラーニング・ファンクションが、現在の状況にどのように対応すべきかの洞察について語られることが期待されます。同様の文脈で、「SU101:How to Handle the Shock of the New: Introducing a Framework for Evaluating Emerging Technologies(新たなものによる衝撃をどうハンドルするか:新たに興るテクノロジーを評価するためのフレームワークの紹介)」のセッションにも期待したいところです。
また、リスキルという観点でひときわ目を引くセッションに、「M308:The Skills Quotient: An Easy Formula for Closing the Skill Gaps From Inside Your Organization(スキル指数:組織内からのスキルギャップを埋めるための簡単な式)」があります。このセッションは、過去にLinkedInのCLOやYahoo!のラーニング最高責任者を務め、シリコンバレーでも注目を集めるケリー・パルマー氏によるものです。デジタル化、自動化、高速化のトランジションの中での社員のアップスキル・リスキルについて、学習のトレンドを感じられるセッションとなりそうです。
加えて、「TU311:Intro to LLAMA: Agile Project Management for E-Learning(LLAMA入門:Eラーニングのためのアジャイルなプロジェクト・マネジメント)」など、TD/L&Dの業務自体にアジャイルプロジェクト管理などを取り入れていくセッションが登録されているのも興味深いです。企業が変化の波の中にあるにもかかわらず、昨年までのカンファレンスでは、TD/L&Dの仕事の領域に人工知能やビッグデータを活用するといったセッションが少なく、このことに対して、ヒューマンバリューのツアー参加者からも疑問の声が挙がっていたところもありました。
こうした観点から、今年は組織内の学習を担う人々にとっても、自身の仕事に関わる大きな潮目を感じるセッションが多く、期待できそうです。

ラーニングの科学

このトラックでは、主に、心理学・行動科学・脳科学の研究から得られた知見を活用し、学習のあり方、人や組織の認知・行動を変容させるアプローチや取り組みなどを紹介しています。ここ数年、脳科学の成果が共有されるセッションは大きな反響を呼んでおり、人事・人材開発に携わる人々の関心も高く、ATDの中でも人気の、活力あるトラックの1つになっています。そのようなトラックにおいて、今年の注目したいセッションについて紹介します。

まず、脳科学の成果からこの分野を牽引しているスピーカーによる2つのセッションについて、紹介したいと思います。1つ目は、脳科学のリーダーシップへの応用の草分け的な存在であるNeuroleadership Instituteによる「M300:The Neuroscience of Power: How Power Affects Leaders and Those Around Them(権力の神経科学:権力がリーダーとその周りの人々に与える影響)」です。今年は、組織の中で権力と地位をもつことによる脳の変化を明らかにした研究からの知見が紹介されます。
もう1つは、毎年示唆に富むコンテンツがシェアされることで人気のブリット・アンドレアッタ氏による「TU104およびW113:Wired to Grow 2.0: Critical Updates in the Brain Science of Learning(成長するようにできている2.0:学習の脳科学における重要な最新情報)」です。知的好奇心を刺激する、彼女のプレゼンテーションは今年も注目したいところです。
また、今年の脳科学の知見を応用したセッションのトレンドとしては、多岐にわたるテーマ(レジリエンス、パワー<権力>・ヒューマンエラー、サイコロジカルセーフティやトラスト、フィードバック、学習の脳科学など)が扱われるようになったことです。
 
たとえば、30年近くレジリエンスについての研究を行い、数多くの組織や団体で講演や教育活動を行っているアンドリュー・シャッテ博士は、「SU408:It’s Time to Rewire Our Brains: The Secret to Success in the Face of Unrelenting Change(私たちの脳を再配線する時が来ました:容赦ない変化に直面した成功への秘訣)」で、脳科学とレジリエンスに関する知見を紹介します。また、同じくレジリエンスについて、Academy of Brain Based Leadershipのダニエル・ラデッキ博士が、「M111:The Resilient Brain and How to Enhance It(回復力のある脳とそれを高める方法)」というタイトルで登壇します。
 
他にも、脳科学とフィードバックに関する「W213:Sparking a Feedback Revolution(フィードバック革命を起こす)」のセッションでは、カンバセーションに関する書籍を数多く出版しているショーン・ハヤシ氏が、フィードバックの提供と傾聴を通した、より良いコラボレーションと成長の文化の実現方法について知見を共有します。

また、チームの心理的安全やトラストについては、日本でも重要性が高まるテーマですが、昨年のセッションが好評だったケニス・ノヴァック氏が「M210:The Neuroscience of Psychological Safety and Trust in Effective Teams(心理的安全のニューロサイエンスと効果的なチームへの信頼)」というセッションを行います。今年の進化に注目してみたいと思います。

行動科学からのセッションも見逃せないものがあります。たとえば、「M103:The Power of Habit(習慣の力)」では、The New York Times、Amazon.com、USA Todayなどでベストセラーリストに載った書籍『The Power of Habit(邦題:習慣の力)』の著者であるチャールズ・デュヒッグ氏が登壇します。氏が何を語るのか注目されるところです。また、毎年素晴らしいプレゼンテーションで聴衆を魅了するセバスチャン・ベイリー氏(Mind Gym社の共同創立者)が、今年も「TU205およびW308:The A to Z of Behavior Change: 26 Scientific Hacks to Make Learning Stick(行動変容のAからZまで:学習に固執するための26の科学的ハック)」で登壇します。
その他に、学習科学を学習の設計・デザインに応用し、学習性の向上につなげるセッションもあります。その中でも今年は、ユニークな運営方法やカリキュラムなどで近年注目度が高まっている、ミネルバ大学の学術プログラムの副学部長を務めるジェームス・ジェノン氏が、「W220:Beyond the Science of Learning(学習の科学を超えて)」に登壇します。ミネルバ大学のユニークなアプローチがどのような知見や考えに基づいて行われているのか、興味深い話が聞けそうで楽しみです。また、「TU306:Motivation and Engagement: Key Skills and Strategies in Continuous Learning(動機づけとエンゲージメント:継続的学習における重要なスキルと戦略)」では、長年にわたり学習の設計やデザインを実践してきたローリー・ブルス氏が、学習者の動機をどのように高め、継続的な学習を支援するかについて話される予定です。
また、ここ数年ATDで続けてセッションを担当し、ラーニング4.0というコンセプトを掲げ、新たな学習のあり方の再構築を提唱し、関心を集めているパトリシア・マクレガン氏の「TU214:The Next Frontier: Unleashing the Learner(次のフロンティア:学習者を解き放つ)」は、新しい学習のあり方について探求する際に参考になるかもしれません。

タレント・マネジメント

本トラックは昨年より新設されたもので、一昨年までの「ヒューマン・キャピタル」のトラックで扱っていたような、組織のパフォーマンス向上や変革の推進、また、それらの取り組み事例等が紹介されています。取り上げられるテーマとしては、タレント・ディベロップメント、エンゲージメント、組織のカルチャー醸成、ダイバーシティ&インクルージョンなど多岐にわたっています。
本トラックにおける今年の特徴の1つとしては、単に、働く人々のエンゲージメントやパフォーマンスを高めるポイントが言及されるだけでなく、たとえば「採用」「配属」「退職」といった、働く人々が経験する具体的な節目において、人々や組織のパフォーマンスをより高めるためのポイントや事例が紹介されていることが挙げられます。こうした傾向が見受けられることの背景としては、時代の変化が激しく、一人ひとりの主体性や情熱が発揮されることの重要性が高まっている現代、単に自社に適した人材が確保できればよいというのではなく、エンプロイー・エクスペリエンスという言葉に表されるように、業務を通じた一人ひとりの様々な経験に寄り添い、経験から得られる能力を高め、生かし続けられるような仕組みや組織づくりの重要性が高まっているということがあるのかもしれません。
具体的なセッションでいうと、「TU416:Driving Business Results Through Strategic Onboarding(戦略的オンボーディングによる業績の向上)」があります。オンボーディングとは、新しく組織に配属されたメンバーが早期にパフォーマンスを発揮できるように、組織全体でサポートする取り組みや育成プログラムのことです。パフォーマンスの向上だけでなく、エンゲージメントの向上や離職率の減少などにも効果がある新たな取り組みとして注目が高まっています。このセッションでは、ある組織がオンボーディングを通じて劇的な変化を遂げた事例を紹介し、戦略的なオンボーディングによって、新入社員が与えるビジネスへの価値について言及されるようです。登壇するPhase(Two)Learning社はオンボーディング開発を専門とする企業であり、スピーカーであるミシェル・ベイカー氏のブログは、人事・人材開発の多くのプロフェッショナルに読まれています。昨今、日本でも関心が高まっているオンボーディングの価値や可能性に、新たな視点を加える期待をしたいセッションです。
また、「TU207:America's Got Hidden Talent – How to Recruit, Retain and Advance Employees from Hidden Talent Pools(アメリカズ・ゴット「ヒドゥン(隠れた)」・タレント― 隠れたタレントプールからリクルートし、保持し、成長させる方法)」は、労働力が不足する中、ポジティブな社会的インパクトにつながるような採用戦略についての具体的な取り組み事例を紹介し、リテンションと採用の課題を明らかにしていくセッションのようです。GAP社、MODピッツァ社、タイソン・フーズ社といったメジャー企業のHRリーダーが登壇するセッションであり、採用を新たな観点から捉え直すヒントが得られるかもしれません。
また、本トラックでは、変化が激しく複雑な中での組織文化の醸成におけるポイントに言及したセッションが見受けられることも1つの特徴として挙げられます。たとえば、従業員エンゲージメントを扱ったセッションに、「M304:Engage Them: A Framework for Building a Culture of Employee Loyalty(従業員にエンゲージする:従業員のロイヤリティ文化を築くためのフレームワーク)」がありますが、ここでは、フランクリン・コヴィー社のレーナ・リン氏から、カルチャーにフォーカスを当てたセッションが行われるようです。
そのほかに注目してみたいセッションとしては、「TU407:Psychological Safety---What Is It? How Do You Cultivate It? (心理的安全---とは何か?どのように醸成するのか?)」があります。このセッションでは、チームの生産性を高めるためのポイントとして注目されている「心理的安全」をテーマに、その重要性や心理的安全の文化を醸成するポイントなどについて、4人の専門家がスピーチを行います。中でも、スピーカーの一人であるハーバード・ビジネス・スクール教授のエイミー・C・エドモンドソン氏は、チームをテーマにした「チーミング」の概念で知られており、心理的安全に関して長年研究を重ねてきた著名な人物です。4人のスピーカーの長年にわたる研究および実践から得られた、深い知見や洞察を期待したいセッションです。
また、「SU415:Why Feedback Fails, and What You Can Do About It(フィードバックが失敗する理由と、それに対してできること)」は、フィードバックにフォーカスしたセッションです。フィードバックは、その重要性に注目が集まり、様々な取り組みが増えつつあるようですが、本当に効果的なフィードバックの文化を醸成することは、容易なことではないかもしれません。スピーカーのダイアナ・アンダーソン氏は、企業にコーチング文化を醸成するパイオニアとされており、彼女のコーチングのアプローチは、世界中で数多く取り組まれています。彼女の豊富な経験と実績から、組織にフィードバックの文化を醸成する具体的なヒントが数多く得られる可能性のあるセッションです。
「TU315:Money Ain’t Everything: Why Relationships Are Your Most Important Currency(お金がすべてではない:関係性があなたにとって最も重要な通貨である理由)」では、これまで数々の実績を残しているスーザン・スコット氏が、文化の醸成のポイントとなる「対話」について紹介したり、「W115:Build Trust Today or Lose Talent Tomorrow:(今日信頼を築くか、明日タレントを失うか)」では、マネジメントとリーダーシップのコンサルティングファームとして有名なケン・ブランチャード社が、組織の信頼性の醸成について紹介するようです。これらのセッションを通じ、これからの組織文化の醸成における大切なポイントが、立体的に浮かび上がってくるかもしれません。
さらに、本トラックのもう1つの特徴として、デジタル化やAIの拡大が急速に進む中での、人々の学習や業務のあり方を扱うセッションが散見されることが挙げられます。
たとえば、「ATD Forum 5:Be the Hero: Benchmarking Learning in the Future(ヒーローになろう:学習の未来をベンチマークする)」では、何百もの記事や、脳神経科学者、ゲームデザイナー、ビジネスリーダー、映画製作者など40人以上の専門家へのインタビューを通じて推測される、将来の学習のあり方に関する共有があるようです。非常に幅広い観点から、今後の学習のあり方をリアルに探求できるセッションとなるかもしれません。
また、「TU220:Accelerating the Future Workforce: Rapid Reskilling(将来の労働力を加速する:迅速なリスキル)」は、リスキルをテーマにしたセッションです。テクノロジーを扱うアクセンチュア社の、タレント・ディベロップメント&ラーニング部門の方々が登壇します。「リスキル」は2018年のATDでも注目を集めたテーマですが、本セッションでは、リスキルの重要性とともに、それを加速したり妨げたりする組織的要因について言及されるようです。変化が特に激しいといわれるテクノロジー業界における具体的な事例の共有であり、組織でリスキルを進めるポイントが示唆されるかもしれません。
「W100:Demystify the Truth of Workplace Automation(ワークプレイスでの自動化の真実を解明する)」は、AIの活用が拡大傾向にある中での、職場の自動化をテーマとしたセッションです。これまで人が行ってきた業務の一部をAIが行うようになることに対しては、業務の効率化が期待される一方で、職を失うという労働者の不安を促すことも指摘されています。本セッションでは、人が行う仕事の再定義を通して、そうした不安を和らげつつ、業務の自動化を進めていく具体的な事例が語られるようです。AIが加速度的に進化していく中、人が働くことの意味や価値を探求するヒントが得られるセッションになるかもしれません。
その他に、昨今注目度が高まっているキーワードにレジリエンスがありますが、「SU404:Resilience: The Key to Thriving Amidst Change(レジリエンス(回復力):変化の中で繁栄)」では、激しい変化の中で個人がいかにレジリエンスを高めていけるかについての戦略が語られるようで、興味深いといえます。
最後に、本トラックで注目したいその他のセッションとして、「SU320:When Passion Is Not Enough: Understanding the Science of Belonging, Inclusion, and Growth(情熱だけでは十分でない時:所属、インクルージョン、成長の科学を理解する)」を挙げたいと思います。本セッションは、ダイバーシティ&インクルージョンをテーマとしており、スピーカーのリーノ・カルマンチェリー氏は20年以上にわたり、社会学、心理学、神経科学、組織心理学を活用しながら、組織のダイバーシティ&インクルージョンを推進してきた北米有数の専門家として知られています。本セッションでも、神経科学や社会科学、個人のストーリーや質的データを活用した、科学的な指標に基づくダイバーシティ&インクルージョンの推進について言及されるようであり、ダイバーシティ&インクルージョンを検討し、推進する上で新たな観点が得られる期待をしたいセッションです。

トレーニング・デリバリー

本トラックでは、トレーニングを通じた知識伝達や人材開発の技術を高めるためのプログラムの設計方法をはじめ、インストラクションやファシリテーションのスキルおよびテクニックなどが主に扱われています。「インストラクショナル・デザイン」や「ラーニング・テクノロジー」のトラックと併せて、効果的な学習のあり方や進め方のキーポイントを知ることができるトラックです。

近年の傾向としては、学習環境の変化に応じて、参加者をエンゲージするための様々なツールやアプローチに焦点が当てられており、特にストーリーテリングについては、過去5年間にわたって、多くの関連セッションが見受けられます。それ以外には、個別具体化するニーズに合わせて、たとえば、ゲーミフィケーション、インプロビゼーション、バーチャルチームのファシリテーション、抵抗への対処など、バラエティに富んだ内容になっています。

今年の概要を見てみると、主に2つの傾向が見受けられます。まずは、例年と同様の「ストーリーの活用」についてです。ただし、これまでとは内容が少し変わってきているようです。従来は、トレーニングの参加者をいかに惹きつけ、動機づけるかという、ストーリーの語り方に着目したストーリーテリングのセッションが中心でしたが、今年は、ストーリーを語る前の行程や全体プロセスのデザインに重きを置いたものが登場する予定です。もう1つは、「バーチャル学習の促進」についてです。これまでもバーチャル環境におけるデリバリーやファシリテーションに関するセッションはしばしば登場してきましたが、今年は本テーマに関するセッションが例年よりも増加しています。

それでは、1つ目の傾向として挙げた「ストーリーの活用」に関して、注目したいセッションをいくつか見てみましょう。

たとえば、「SU100:StoryTraining:Selecting and Shaping Stories That Connect (ストーリー・トレーニング:つながるストーリーの選択と形成)」では、ストーリーを使った効果的な学習方法が紹介されるようです。具体的には、講師が自身のこれまでの経験を掘り下げ、学習者に役立つような適切な経験を選択し、それをストーリーとして形成し、学習者に共有することで、学習者も自らの経験をストーリーとして語ることができるようになるような一連のプロセスと方法について、説明がなされるようです。

また、「TU406:Story Design in Real Life:From Analysis to Delivery(実生活におけるストーリーデザイン:分析からデリバリーまで)」では、ストーリー・デザイン・モデルと呼ばれるモデルを活用し、日常においてコンフリクト状態にあるキャラクターを創り、現状を分析した上で、より良くなるためのストーリーをデザインし、デリバリーする方法について説明がなされるようです。

次に、2つ目の傾向として挙げた「バーチャル学習の促進」に関して、注目したいセッションをいくつか見てみましょう。

たとえば、「M115:Secrets of Master Virtual Trainers:5 Keys to Online Classroom Success(マスター・バーチャル・トレーナーの秘密:オンラインクラスルームでの成功への5つの鍵)」では、トレーナーとして、インタラクティブなオンラインの講義を行う上で重要となる5つのスキル(事前準備、参加者のエンゲージの仕方、効果的なマルチタスキング、音声の使い方、予期しない課題への対処)についての説明がなされるようです。

また、「M213:Keeping Pace With Rapid Change via Virtual Classroom(バーチャルクラスルーム・トレーニングによる急速な変化に対応する)」では、世界銀行の事例が紹介されます。急速に進化するグローバル環境の中でナレッジを循環し続けるために、世界銀行がバーチャルクラスルーム・トレーニングの設計から運用に至るまでにどのように取り組んでいるのか、そのフレームワークについて説明がなされるようです。

さらに、「W304:Captivate Your Virtual Learners Through Dynamic Training Tools(ダイナミックなトレーニングツールでバーチャル学習者を魅了しましょう)」では、米国の投資銀行であるR.W.Bairdの事例が紹介されます。最先端のソリューションと成人学習理論を合わせて取り組んでいる、バーチャル学習者の惹きつけ方や行動変容のアプローチについて説明がなされるようです。

上述した傾向以外で注目したいのは、レジェンド・スピーカーであるボブ・パイク氏の「M100:Top 10 Tips, Techniques, and Strategies of a Master Trainer(マスタートレーナーのトップ10のティップス、テクニック、戦略)」のセッションです。パイク氏は、今年でフルタイムのプロトレーナーとなって50年目を迎えるそうです。今回のセッションでは、その50年間の実践と経験を通じて教えてきたことを最大限に共有することを意図しているようで、ビギナーの方からベテランのトレーナーの方まで、幅広い方に参考となる内容になりそうです。


※事前レポート内のセッション情報は2月1日時点のものです。セッション番号は、
変更になる可能性がありますので、最新情報はATDのウェブサイトでご確認ください。

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