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ATD(The Association for Talent Development)

ASTD2013概要

関連するキーワード

ASTD2013の参加国・参加者数

本年の参加国数と参加者数は以下の通りとなっています。

参加国数と参加者数
トータル:87か国、9,000名

国外からの参加者が多い順
1.韓国:387名
2.カナダ:235名
3.中国:172名
4.日本:128名
5.ブラジル:124名

ASTD2013の主要テーマ

今年は以下の11個のセッション・カテゴリーに分けられています。昨年のセッション・カテゴリーから「トレンド」がなくなり、新たに「トレーニング・プロフェッショナルではない人向けのワークフォース・ディベロップメント」が加わっています。

・キャリア・ディベロップメント
・デザイン&ファシリテーティング・ラーニング
・グローバル・ヒューマン・リソース・ディベロップメント
・ヒューマン・キャピタル
・リーダーシップ・ディベロップメント
・ラーニング・テクノロジー
・測定、評価、ROI
・トレーニング・プロフェッショナルではない人向けのワークフォース・ディベロップメント
・ハイヤーエデュケーション
・ガバメント
・セールス・イネーブルメント

ASTD2013コンファレンスの報告

株式会社ヒューマンバリュー 主任研究員 川口大輔

米国テキサス州ダラスにて開催されたASTD2013 International Conference & EXPOでは、5月19日から22日までの4日間で約280のセッションが開催された。世界各国から約9,000名の人々が参加した。5,000名規模を収容できる基調講演の会場もかなり埋まっており、同じく9,000名が参加した昨年と同程度の活気が感じられた。
海外からの参加者は総勢2,200名で、こちらは昨年の2,100名から若干増えたようである。国別にみると韓国が387名でトップであった。昨年と同程度の参加者数であり、変わらず熱心な姿勢が伺えた。その次にカナダ235名、中国172名と続いた。昨年急に参加者数を伸ばした中国から、今年も多くの参加者が出席していた。日本からの参加者は128名で、全体では4番目であった。トップ4に韓国、中国、日本の3か国が入っており、アジア人の割合の高さが見受けられる。

またASTDでは今年初めてインターナショナル・ボランティア・アウォード2013が設けられたが、日本のASTD-GNJの理事全員が表彰を受けた。日本における会員数の伸びや、委員会の積極的な活動等が評価されたとのことであった。参加人数以上にASTDにおける日本のプレゼンスも向上しているように思われる。
また、例年350以上の会社がブースを出展するEXPOにおいては、今年の出展数は355であり、例年と同程度の数であった。ただし、実際に会場に足を運んでみると、派手な演出を行ったり、大きなブースを出展する企業も増えていて、一時やや活気を失っているように見えたEXPOも、盛況を取り戻してきているようであるとのことであった。

コンファレンスの内容については、明確なトレンドと呼べるものは少なかったが、キーワードのレベルでは、全体の傾向が垣間見られたように思う。以下に、コンファレンスの中でも比較的多くのセッションで取り扱われ、情報交換会の参加者の関心が高かったキーワードを抜粋して紹介する。

・キュレーション
・ストーリーテリング
・強み、ストレングス、タレント
・パッション(情熱)
・ミレニアル世代
・Mラーニング、ソーシャル・ラーニング
・Tin Can API
・オーガニゼーショナル・アーキテクチャー
・バウンダリー
・セルフ・リーダーシップ、セルフ・アウエアネス、インナー・リーダーシップ
・スローダウン
・レジリエンス
・リバース・メンタリング
・ハピネス
・アジリティ
・ニューロサイエンス
...etc

キーワードを見ていくと、コンファレンスの背景に流れている文脈が見えてくるようにも思われる。
この後の報告では、まず「1.基調講演」の中で、今回行われた3つの基調講演の概要をお伝えする。基調講演者は、毎年ASTD側で綿密な検討が行われて選ばれており、世界の潮流やその中での人材開発に関わる人々が今後何を考えていく必要があるのかを探求する上でも参考になると思われる。その後、上述したキーワードの中から、ヒューマンバリューのメンバーの関心が特に高かったものを選んで、ひとつずつ報告する。報告は、各テーマに関するセッションに比較的多く参加した弊社メンバーがそれぞれのテーマを担当した。具体的には、「2.ミレニアル世代とメンタリング」「3.キュレーション」「4.グローバル・ヒューマンリソース・デベロップメント」「5.ニューロサイエンス」「6.タレントとエンゲージメント」といったテーマについて紹介する。これらがすべてを網羅しているわけではないが、コンファレンスの全体観をつかむ上での参考にしていただければ幸いである。

1.基調講演

株式会社ヒューマンバリュー プロセス・ガーデナー 霜山元

ここでは、ASTD2013における基調講演の内容をまとめている。

○ケン・ロビンソン

2日目に行われた1回目の基調講演は、主に教育の分野で創造性の重要性を主張しているケン・ロビンソン卿(Sir Ken Robinson)によるプレゼンテーションだった。彼はファストカンパニーの「World's Elite Thinker on Creativity」にも選ばれており、彼の著名なTEDでのスピーチは150か国以上の3億人の人々によって再生されている。また彼の著書"Element"は日本でも「才能を引き出すエレメントの法則」というタイトルで出版されている。
この講演では、情熱の重要性、情熱と才能の関係が実例を交えながら紹介され、情熱を持って有機的な人生の可能性を開いていこうというメッセージがたっぷりのユーモアと共に伝えられていた。

ロビンソン氏は長く教育に携わってきた中で、「すべての人が奥深い才能を持っていると感じている。しかし才能は天然資源のようなもので、ほとんどのケースの場合それを見つけることができていない。その理由としては、これまでの組織や教育といったものが考えられる」と述べていた。
才能を見つけ出せた人は、状況が合致してそれを引き出せるのだが、それには最初の情熱が必要だということだ。情熱とは、それをやっている時、ものごとが楽しくてしょうがなく、完全にエンゲージしている状態のことである。
他の人がどう考えているか、どう評価されるか、また自分が得意だからとか上手にできるからとかということは情熱には関係しない。自分が本当に好きなことから始めることの重要性が、音楽家の家庭に生まれて、3歳からピアノを弾いて、上手にできるからという理由でピアニストになったものの、自分が本当は言葉や本に情熱を持っていることに気づいて、ピアノに蓋をして編集者になって、いまは幸せな女性の話を交えて紹介された。

また、抗うつ剤の売り上げが脂肪酸・抗コレステロールの薬の売り上げを超えたことや、アメリカの学校における落第者数などを紹介しながら、幸福感とは物質的なものではなく精神的なものによって得られるということが話された。
「人類が誕生してから累計でおよそ1,000億人の人が生きてきた。しかし同じ人生を生きてきた方は一人もいない。生まれてきたこと自体がミラクルであり、その中でそれぞれの人が情熱を持って個性や才能を花開かせていく環境を作っていこうではないか」というメッセージが伝えられた。

講演はアナイース・ニン(Anais Nin)の詩を紹介して締めくくられた。
"And the day came when the risk to remain tight in a bud was more painful than the risk it took to blossom"
(堅く閉じたつぼみでいつづけることの苦しみは、花を咲かせようとする際の苦しみよりも遥かにつらい)

○ジョン・シーリー・ブラウン

3日目に行われた2回目の基調講演は、ラディカルイノベーションのマネジメントやテクノロジーとラーニングの融合を専門に、研究所や大手企業の顧問などを多く勤め、数多くの起業家達のメンターともなっているジョン・シーリー・ブラウン氏(John Seely Brown)によるプレゼンテーションだった。

講演では、21世紀にデジタルの世界によって引き起こされた加速度的な変化の特徴と、その中の新しいラーニングのカルチャーとして起業家的なラーニングのあり方が紹介された。その上で、組織のCLO(チーフ・ラーニング・オフィサー)が取り組んでいく方向性が提示された。
20世紀は、大きな変革があって安定が訪れるという時代であった。ここでは予測可能性というところから効率性が求められ、コントロールや階級制度、大量生産といった習慣が生み出されたが、21世紀のデジタルな変化は無限性を持っている。ストックの世界からフローの世界へとシフトが起こっており、知識を保護するのではなく、どう知識創造の流れに参画するかが重要になっている。いま世界中の企業のチャレンジは、測定可能で戦略的な効率性の世界からスケーラブル・ラーニング(拡張性のあるラーニング)の世界へ、どのように移行したらよいかということである。その際には、知識やスキルはすぐに陳腐化してしまうので、もっとメタ的な知識、マインドセットを獲得する必要があるという前提が提示された。

そこで新しいラーニングのカルチャーとして起業家的ラーニングということが紹介された。起業家はコンテクストを読み学習をしていくことが得意で、どのような状況でも学習の瞬間に変えられる人たちであり、流れを感じて、自分の心や頭だけではなく、手足も一緒に動かして学習を具現化することに特徴があるということだ。
起業家的ラーニングの基本的なあり方として"Questing""Connecting""Reflecting""Playing"の4つが挙げられていた。
これらはあり方であり、それは教えられるものではなく、自分たちで養ったり探したりしていくことしかできない。ただ、そうしたことをサポートする上でメンタリングの重要性が取り上げられていた。ミレニアルよりも上の世代がこうしたパラダイムになじんでいくために、若者がシニアに対してメンタリングするリバースメンターシップが重要になってくるということも述べられていた。

また、この4つの中でもとくに"Playing"の要素が強調されていた。モンテッソーリーの学習方法にも振れながら、無限の答えがある世界の中で、境界を超えてどんどんと探求していく、イマジネーションをもって試行錯誤していく、変化し続けるという意味で、"Play"には深い意味があるということが述べられていた。
最後に、「20世紀は組織が個人を形作っていたが、21世紀は個人が組織を形作っていく時代になる。人は内在的に起業家的な学習者であり、こうした人たちのイマジネーションが躍動するような準備をCLOはする必要がある。CLOはワークスケープがラーニングスケープとなるようなアーキテクトを形作っていく必要がある」ということがASTDの参加者たちにメッセージとして伝えられた。

○リズ・ワイズマン
最終日に行われた3回目の基調講演は、元オラクルの役員であり、現在はシリコン・バレーに本社を置くワイズマン・グループの社長として、世界各国でエグゼクティブ向けにリーダーシップを教えるなど、長年グローバル・リーダーの養成に携わってきたリズ・ワイズマン氏(Liz Wiseman)によるプレゼンテーションだった。

講演では、氏のこれまでの仕事と研究から発見された、現在の社会における効果的なリーダーシップのあり方が紹介された。著書の"Multipliers"に基づいて行われた発表は、いまの時代に適した新しいワークスケープ、新しいワークフォースを構築していく上で、その変化を推進するためにはどんなリーダーシップのあり方が求められるのかという問題提起から始まった。
そこでワイズマン氏は、自身の考えたマルチプライヤー(Multiplier)というリーダーシップのスタイルを提示した。マルチプライヤーとは、周囲の人々のインテリジェンスを増幅させるような人のことである。その反対の概念としてディミニシャー(diminisher)がある。ディミニシャーは、周りの人のインテリジェンスを抑圧してしまうようなタイプの人のことである。

マルチプライヤーが生み出すインテリジェンスは、ディミニシャーが生み出すインテリジェンスの2倍であると述べていた。その違いは周囲の人々に対してどういう考え方を持つのかという、ちょっとした違いから生まれる。それはディミニシャーが「人々は自分がいないと何もわからない(People don't figure it without me)」と考えるのに対して、マルチプライヤーは「人々は賢く、課題を解決できる(People are smart and will figure it out)」と考えるという違いである。この考えに基づいた行動の積み重ねが、2倍の違いを生みだしていくと述べられており、それぞれの典型的な行動例が紹介された。

ただし、ディミニシャーであるからといって、マルチプライヤーになれないわけではない。自分がディミニシャーだと思って落ち込んだり、傷ついたりするような心を持っている人々はマルチプライヤーになれる可能性を持っている。それには、ちょっとしたことから現在の行動を変えていくことであるということで、身近な行動変容のヒントが紹介された。
最後に綱渡りをしている写真が映し出され、「自分がいま組織の中にいる支配的なポジション、快適さを感じられるその場所から一歩踏み出しましょう。みなさんのその一歩が組織全体にどういう変化をもたらすか考えてみてください」というメッセージが伝えられた。
舞台からフロアーに降りて参加者と相互作用をするなど、動きの多いプレゼンテーションだった。

セッションの様子

2.ミレニアル世代とメンタリング

株式会社ヒューマンバリュー プロセス・ガーデナー 市村絵里

今年のコンファレンスでは、様々なセッションでミレニアル世代の台頭によりラーニングやマネジメントのあり方が変化していることがあげられており、ミレニアル世代の特徴とその対応の仕方が論じられていた。ミレニアル世代とは、2000年以降に社会で活動し始めた人たちで、生まれたときから電子機器、インターネット、モバイルなどを使用してきた世代である。1980年から1990年ごろに生まれた人々だが、詳細な年代の切り方はセッションによっても少し違いがあるようだ。

i4cpのCEO、ケビン・オークス氏のセッション「M102:ミレニアル(新世紀世代)のためのリーダーシップ開発」では、ミレニアル世代を1977年~1997年に生まれた世代と定義している。ミレニアル世代はその他に、Y世代、エコブーマー、ネット世代、デジタル・ネイティブ、ブーメラン(出戻り)世代、ピーターパン世代といった呼び方があるということだ。2012年11月に出されたi4cpのデータ「Leadership Development for Millennials」によると、ミレニアル世代の育成に効果的な主な方法としては、「OJT、パフォーマンスへの期待を明確にする、継続的な学習へは授業料を払いもどす、フィードバックを頻繁に早く行う、メンタリング/コーチングプログラム」などがあげられている。

いくつかのセッションでは、TIME誌(2013年5月9日)の表紙で「The ME ME ME Gerneration」としてミレニアル世代についての特集が掲載されたことが紹介された。TIME誌やForbs誌のコラムニストでもある、Millennial Branding, LLCのダン・シャウベル氏によると2025年までにアメリカの就労人口の75%がY世代になると言われている。
ダン・シャウベル氏のセッション「TU105:未来のワークフォース(労働力)を構築する:どのように人材を採用し、保持し、Y世代を育てるか」では、ミレニアル世代を、Y世代とほぼ同義で使っており、Y世代を1982年~1993年に生まれた人と定義している。セッションの中では、ミレニアル世代が望んでいるものには、「継続的なフィードバック&メンタリング、透明性、自由&柔軟性、内部でのキャリア・オポチュニティ、コラボレーションができる環境、コミュニティ、お金よりも意味のある仕事」というものがあげられていた。

ミレニアル世代の特徴として、日常のフィードバックを得たいという欲求が強いため、日々のコミュニケーションやメンタリングへの注目度が現在高まっている背景からか、今年のセッションでは「M100仕事がよくできる - 日常会話を習得する」「W301:コミュニケーション2.0 - 21世紀におけるコミュニケーションのアート」など、日々の会話やコミュニケーションを題材にしたものも多くみられた。

「TU205:彼らの成長を助ける、さもなければ彼らは去るでしょう:従業員が望むキャリアの会話」のセッションでは、キャリア開発のグルとして知られるビバリー・ケイ氏が、そうしたミレニアル世代が望む日々のコミュニケーションやメンタリングのヒントになりそうな内容を扱っていた。セッションの中で氏は、多くのマネジャーがキャリア開発のための会話を、自分の影響範囲を超える要求に対して返答できず、時間もないために避けがちであるが、その恐れを捨てなくてはならないと述べている。マネジャーは答えを持っている必要はなく、よい質問があればよいのだということだ。そして、日々の会話の中で他者に「興味を持つ」ことの大切さをふれており、「疑いを捨て判断を保留する、すぐに「ここを直しなさい」と言わない、知らない/理解できないということを恐れない、深堀をする、コントロールを捨てる、人々をみな興味深いと信じる」ということがあげられていた。

また、キーワードとして、基調講演のジョン・シーリー・ブラウン氏や、先ほど述べたダン・シャウベル氏のセッション(TU105)の中であげられていたものに「リバース・メンタリング」というものがあった。リバース・メンタリングはGEの前会長ジャックウェルチ氏によって十数年ほど前に始められたものである。
ダン・シャウベル氏によると、ミレニアル世代が上のジェネレーションへ、最新の機器の使い方を教え、メンタリングすることで、年配の従業員も職場で成功できるように導くと同時に、エグゼクティブと若手とのコネクションを生み出し、若手のアイデアを組織で実現することをサポートするスポンサーを生み出すことができると述べている。
この「リバース・メンタリング」という言葉は、まだ大きなテーマとしてセッションの中で扱われているわけではないが、ミレニアル世代の台頭とともに、世代間のギャップを埋め、組織に新しい世代の知恵を取り込む1つの方法、そしてミレニアル世代の育成の機会として、今後さらに注目を集めていくキーワードとなっていくことが考えられる。

3.キュレーション

株式会社ヒューマンバリュー 主任研究員 川口大輔

今年のコンファレンスでは、複数のセッションで、「キュレーション(Curation)」というキーワードが扱われていた。キュレーションという言葉は、一般的には美術館や博物館などの学芸員(キュレーター)が、テーマに沿って作品を収集、編集して紹介する行為を指すものである。昨今では、「デジタル・キュレーション」という言葉の使われ方があるように、日々の膨大な情報の中で、個々の情報をつないで、そこに意味や新たな価値を生み出していくプロセスとしても使われ始めているようである。

ASTDで初めて「キュレーション」という言葉が使われたのは、2010年のシカゴの大会であったと思う。基調講演者のシャーリーン・リー氏(ソーシャル・テクノロジーの分野でのオピニオン・リーダーであり、「Open Leadership: How Social Technology Can Transform the Way You Lead」の著者)が、これからのオープン・リーダーシップのあり方のひとつとしてキュレーティングという言葉を紹介していた。当時(3年前)は、ASTDの中ではコンセプトレベルでの紹介であったように思うが、今年のコンファレンスでは、ラーニングの分野における具体的な役割やプラクティスとして扱われ始めたという印象を受けた。コンファレンス参加者の関心も高く、キュレーションをテーマにしたセッションでは、200名近く入る会場がほぼ埋まっており、中でも活発な質疑応答・意見交換が繰り広げられていた。

では具体的にラーニングの分野の中で、キュレーションとはどのような行為を指すのであろうか。「SU213:Learning Environments by Design: Curating Resources for Complex Learning Needs:デザインによる学習環境:複雑な学習ニーズをキュレートする(整理し、意味づける)リソース」において、講演者のキャサリン・ロンバードッツィ氏は、以下の7つの役割を挙げていた。

・Seek:情報のコレクションを常に最新に保てるように情報を探す
・Filter:何が重要で価値のある情報であるかを人の判断によって特定し、情報のフィルタリングを行う
・Categorize and tag:適切な情報を簡単に見つけられるようにカテゴライズし、タグ付けを行う
・Contextualize:収集した情報のインパクトを高めるために、文脈や解釈を加える
・Highlight:意味を生み出すことを可能とするために、トレンドやビッグ・ピクチャーをハイライトする
・Make connections:より深い洞察を提供するために、関連した(一見すると関連していないようにみえる)情報をつなぐ
・Generate discussion:コミュニティを生み出し、知識とスキルの創造を可能とするために、人々の間に議論を生成する

この内の、上の3つはベーシックなものであり、より価値を生み出していくためには、下の4つが大切になるとのことであった。また、「SU210:Curation: Beyond the Buzzword:キュレーション:専門用語の先に」において、講演者のデイビッド・ケリー氏は、キュレーションの5つのタイプとして、「Aggregation(アグリゲーション):集約」「Filtering(フィルタリング):収集したものをフィルターする」「Elevation(エレベーション):データの流れを聞いて、有用かどうかを可視化する」「Mash-up(マッシュアップ):異なるものを組み合わせて新しいコンテクストをつくりだす」「Timeline(タイムライン):リソースを時系列にして、事象を並べる」を紹介していた。いずれにしても、情報をフィルタリングして、そこに新たな意味や価値、文脈を生み出していくようなプロセスを指していると考えられる。

では、こうしたキュレーションが、ラーニングの分野で注目を集め始めたのにはどういう背景があるのであろうか。基調講演を行ったジョン・シーリー・ブラウン氏は、今はストックの世界からフローの世界へと移ってきており、ナレッジのフローに参加し、新たなナレッジを創造していくことが大切であると述べられていた。そうしたフローの世界においては、企業における学習のあり方も、あるべきゴールに向けて、決められたコンテンツを学ばせようとする「Push型」から、学習者を中心に起き、学習者がEntrepreneurial Learner(起業家的学習者)として、自分の周りにある全ての機会から学ぶことを推進していく「Pull型」にシフトしていくことが考えられる(実際に、ASTDプレスにおいて、ジョン・シーリー・ブラウン氏は、企業におけるプッシュ型の学習は近い将来姿を消していくのではないかといったことを、やや冗談めかしてではあるが話していた)。

そして、そうした状況の中では、ラーニング&ディベロップメントに求められる役割は、組織における学習のアーキテクチャーや、学習の文化を創造することへとシフトしていくであろうと、ジョン・シーリー・ブラウン氏は述べられていた。また、同じ文脈の中で、上述したキャサリン・ロンバードッツィ氏は、「学習環境デザイン」の重要性を述べていた。同氏が述べる学習環境デザインでは、個人のインスピレーションとモチベーションを土台として、「Resources(リソース)」「People(人々)」「Training and Education(トレーニングと教育)「Development Practices(開発の実践)」「Learning by Doing(実践からの学習)」といった要素が含まれ、それらをいかに適切にデザインしていくかが、ラーニング&ディベロップメントの新たな役割として大切になってくるとのことであった。このように、組織のアーキテクチャー、ラーニング・カルチャー、そして学習環境を創造していく上で、「キュレーション」がひとつの大きな機能を果たすものとして捉えられているように感じられた。

それでは「キュレーション」の今後の課題にはどのようなものがあるだろうか。キュレーションのリスクのひとつとして、デイビッド・ケリー氏は「フィルター・バブル」という考え方を紹介していた。これは、個人の嗜好性をもとに情報のフィルタリングが行われていくと、自分の周りにあるのは、自身の関心に合う情報のみになってしまい、表示されない情報との出会いがなくなり、個人の成長が妨げられるというリスクがあるということである。
具体的な例として、グーグル検索をする際に、ウェブ上に乗っている無限のコンテンツを相手にしているはずが、パーソナル化した経験をもとに、その人に合わせた情報が提供される仕組みになっていることが挙げられていた(ロケーションや検索履歴からパーソナル化されていくため、同じ単語をグーグルで検索しても、一人ひとり違う画面が表示される)。今後はフィルター・バブルを越えたキュレーションのあり方なども模索されていくかもしれない。キャサリン・ロンバードッツィ氏のセッションの中では、フィルタリングをチームで行って、幅広く適切な情報を選んでいくことの重要性なども取り上げられていた。

また、こうしたキュレーションを、誰がどのように行うのかといったことも、今後探求が進んでいくと思われる。セッションの中でも、この点については多くの人が関心を持って質問を行っていた。これは個人的な所見になるが、いくらラーニング・アーキテクチャーを築こうとしても、築く側のマインドセットが「Push型」のままでは、ナレッジはフローしない。ラーニング&ディベロップメントに取り組む私たち自身が、学習のパラダイムをシフトし、一人ひとりの学びたいという想いや情熱をいかに解放させていけるかといったことを合わせて考えていくことが大切になるのではないだろうか。

4.グローバル・ヒューマンリソース・デベロップメント

株式会社ヒューマンバリュー 主任研究員 長曽崇志

ASTDは、2011年に「グローバル・ヒューマンリソース・デベロップメント」というトラックを新設し、「グローバル」という視点をより鮮明に打ち出すようになった。それ以来、グローバルの変化の動向や取り組み事例を扱ったセッションへの関心は年々高まっているようだ。その中でも「グローバル・リーダーシップ」をテーマとしたセッションが多いのが特徴としてあげられる。今年についても、私が参加した「グローバル・リーダーシップ」に関するセッション会場はどれもほぼ満席に近い状況であった。

それでは、以下、「グローバル・リーダーシップ」に焦点を絞って本年の動向や事例をいくつか紹介したい。
まず、動向としては、アメリカン・マネジメント・アソシエーション(AMA)とリーダーシップ・リサーチ・インスティテュート(LRI)が共同で行った「LEADING IN A WORLD WIDE MARKET」の調査によると、今日のボーダレスワールドにおいては、これまでにない多くのビジネスチャンスがあるものの、企業にとってはむしろ脅威に映っている部分が多いようだ。その背景は、テクノロジーの進化、グローバル化、人口動態の変化、政治の不安定さなど、ビジネスを取り囲む状況の複雑性が増し、経営の難易度も高まっていることがあげられる。そこで、こうした複雑性の高い状況を切り拓くグローバル・リーダーシップ開発を組織的に行うことが急務となっている。

この調査では、成功するグローバル・リーダーシップのキーファクターとして、以下の5つの行動要件があげられている。

・コミュニケーション
・戦略立案
・クリエイティビティとイノベーション
・リーダー育成
・ビジネス成果へのドライブ

こうした行動要件の開発にあたって、グローバルという状況ゆえに組織として対応すべき難しい課題があるのが実情とのことである。それらの課題として以下のものがあげられる。

・地理的な距離や時間への対応
・多様性(文化、言語、宗教など)への重視
・ローカルマーケットのビジネス特性への対応
・開発、運用コスト削減

次に、こうした現状を踏まえ、グローバル企業は実際にどのように取り組んでいる参考事例をセッションの中から3つ紹介したい。

一つ目として、「SU310:Changing the Leadership Development Culture at UPS」では、物流サービスをグローバルに展開するUPS社の事例が紹介された。同社のマネジメント層はグローバルで約37,000人がいる。約5年前までは、その一部の層にのみリーダーシップ開発が行われていたため、組織としてグローバルビジネスの変化に十分対応できていない面があった。
そこで、マネジメント層全体に対象を広げ、リーダーシップを組織文化として浸透させることでグローバルへの対応力をあげようと試みた。具体的には、定型プログラムの集合研修中心のやり方を見直し、遠隔地域の参加者でも米国本社へ行くことなく学習できるバーチャル環境の整備やソーシャルラーニングを活用したリーダーシップの実践コミュニティを推進するなど、2012年の時点で50%の育成コスト削減を実現し、各マネジメント層や地域特性に応じたサポートができるようになったとのことである。

二つ目として、「M304:Global Leadership Starts Locally: Creating Leadership on a Global Scale」では、保険業のプルデンシャルが紹介された。プルデンシャルでは、まずグローバルとローカルのバランスと連携を強化するために、コーポレートとして成すべきこととローカルとして成すべきことを明確にした。具体的には、会社の期待として高めてほしいリーダーシップ・コンピテンシーをエグゼクティブのレベルで定めた。
しかし、実際のコンピテンシーの開発の進め方は、それぞれのローカルの国に任せた。その結果、ローカルの開発チームのクリエイティビティも高まり、地域特性を踏まえたリーダー育成のプロセスやプログラムが出来上がった。また同時にローカルの国の間でそれぞれの取り組みを共有しあう機会を設けることで、ローカル間でのリーダーシップ開発のナレッジが互いに活かされるようになってきたとのことである。

三つ目として、「W118:Developing Creative Global Leaders, Lessons From IBM」では、IBM社のグローバル・リーダーシップ開発の事例が紹介された。同社の取り組みの特徴として、複雑性をリードする行動要件として、クリエイティビティ開発に注力をしているとのことだ。具体的には、IBMのマーケットがこれまで接点のなかった新興国へと事業展開を加速していることや自社の事業の社会貢献性の意味づけに重きを置くようになってきたことから、従来の枠組みを超えた考え方や行動が求められるようになってきた。
そこで、リーダーのグローバルチームをつくり、そのチームで約半年間、新興国での社会貢献活動やソーシャルビジネスの実践を行うプログラムを展開している。この5年間でリーダーシップタレントプールの約10%の社員が参加しているとのことだ。こうした体験を通じて得たグローバルの新たな視点とネットワークがクリエイティビティを高めることになるという。グローバル・リーダーシップ開発の先進的な事例と言えよう。

こうした取り組み事例を見て、あらためて感じるのは、グローバル・リーダーシップ開発を進めていくうえでの最適解はないとのことである。どの講演者も異口同音に言っていた主旨として、グローバル・リーダーシップ開発の先にある実現したいゴールや期待を明らかにし、試行錯誤しながら、少しずつ前進していくことが大切であるとのこと言葉が印象的であった。

5.ニューロサイエンス

株式会社ヒューマンバリュー プロセス・ガーデナー 鬼頭和美、佐野有香、霜山元

今年の大きな傾向としてニューロサイエンスが挙げられる。ニューロサイエンスという言葉自体は数年前から徐々に増えてきていたが、今年のコンファレンスではセッション・テーマに取り上げられている量が大幅に増えている。
具体的には「The Neuroscience of Growing Talent(成長しているタレントの神経科学)」、「The Neuroscience of Leadership Transitions(リーダーシップ・トランジションの神経科学)」、「The Neuroscience of Learning(学習の神経科学)」、「Energizing Your Brain(あなたの脳を活性化する)」といったセッションが開かれた。

「The Neuroscience of Growing Talent(成長しているタレントの神経科学)」のスピーカーは、この分野で著名なスピーカーであるDavid Rockで、彼がCEOを務めるNeuroLeadership Instituteは 今年からASTDと共同で取り組みを行っている。彼のセッションでは、他者との協働の際に必要となるポジティブなマインドセットを獲得するだけでなく、脳への脅威を削減し、取り組みをより効果的なものにしていくという研究成果が共有された。その際、彼の提唱するSCARFモデルに基づき、脳に対する脅威の削減を考える際に効果的な5つの点が語られた。

「The Neuroscience of Leadership Transitions(リーダーシップ・トランジションの神経科学)」では、リーダーシップのフェーズが大きく転換する時期をトランジションと捉え、そのトランジションにおけるキーファクターを促進する脳の働きを調査し、その結果に基づいたポイントとトレーニングに活かせそうなヒントが紹介された。

ASTDのCEOであるトニー・ビンガムは、「ニューロサイエンスによって、ディベロップメントを加速させる方法を探し出そうとしている。ニューロサイエンスは個人にも組織にも素晴らしいものをもたらしてくれると期待している」とプレス発表で述べていた。今回のコンファレンスで関連するセッションを担当したスピーカーは、ほんの一部であるが、ASTDはこれからも幅広いニューロサイエンティストと関係を築き、将来的により多様性のある視点からニューロサイエンスに力を入れていくことを打ち出した。

6.タレントとエンゲージメント

株式会社ヒューマンバリュー 主任研究員 堀田恵美

「タレント」と「エンゲージメント」は、これまでもASTDのセッションで扱われてきたテーマだが、今年は「タレント」と「エンゲージメント」という言葉が一緒に語られるという傾向があった。
「タレント」は今年のキーワードの一つといえるだろう。ケン・ロビンソン卿(Sir Ken Robinson)の基調講演の中でも、「タレント」というのはキーワードの1つであった。また、コンカレント・セッションでも、12セッションで「タレント」がタイトルに含まれており、タレントを活かすことをテーマにしている。一時期「タレント・マネジメント」という言葉が多くでてきていたが、今年は「タレント・ディベロプメント」「タレント・サスティナビリティ」という言葉が使われており、「タレント・マネジメント」という言葉をつかっているセッションは3セッションのみだった。また、12セッションのうち5つのセッションでタレントとエンゲージメントが一緒に語られている。

「エンゲージメント」という言葉は、10年前の2003年のASTDにキーワードとして登場し、一時的に「エンゲージメント」をテーマとしたセッションが増えた。ここ数年は、L&Dの業界においてエンゲージメントが当たり前のコンセプトとなり、セッション中に通常の一般的な用語として使われるものの、あえて「エンゲージメント」を主要なコンセプトに据えて行われるセッションは少ない傾向があった。しかし、今年のASTDでは、「エンゲージメント」をキーワードにして行われるセッションが再度増えてきており、今年は3日間を通じて10セッションがエンゲージメントを主要コンセプトに据えておこなわれている。

そこで、いくつかのセッションの中で、「エンゲージメント」「タレント」がどのように扱われのかを紹介したい。それを通じて、双方のコンセプトの関連性や見受けられた傾向について触れていきたい。
まず、ケン・ロビンソンの基調講演では、自分の真の情熱とタレント(才能)があることによって人生が有機的につくっていくものであると述べられていた。スピーチの中では、タレントは誰にでもあるが、天然資源のようなもの。情熱によって引き出されるということを強調していた。

個別のセッションでは、「SU318:Take Charge of Your Talent -- Engaging Employee Self-Motivation Successfully(SU318:自分の才能を操る-従業員の自発性をうまくエンゲージする)」で、エンゲージメントとタレントという言葉がキーワードになっていた。このセッションは「企業の中の30%から40%のタレントが、ディスエンゲージされておりうまくいかされていない」という問題提起から始まった。そして、そうしたタレントを活かしていくには、従来型のトップダウンなタレント・マネジメントではなく、一人ひとりが自身のタレントやHope(希望)を明らかにし、Hopeを実現するうえでの障害を取り除き、個々人が自分のブランド構築していくというアプローチが重要であるとしていた。また、このセッションの中では、混同されやすいタレントとストレングスの違いについても触れている。「Strength(ストレングスファインダーなどの)は自分自身の中にあるもの。タレントは自分の能力を大きく超えて描くHope(希望)を実現するうえでキーとなるもの」としていた。

次に「M108:Building a Great Place to Work with Powerful Results(パワフルな結果を出す素晴らしい職場を構築する)」では、スペインのマドリッドに本社を構える世界第5位のグローバルテレコムカンパニーである、テレフォニカ・エクアドルでのエンゲージメント向上に向けた取り組み事例が紹介されていた。その中で、エンゲージメントに取り組んだ理由として、「非連続の絶え間ない変化の中で、生き抜いていくためには、より従業員一人ひとりがカスタマーフォーカスになり、変化に対する自分たちの学習性を高める必要がある。ESとCSを徹底的に高めることに決めた」としている。この取り組みの特徴は、AIやワールド・カフェのアプローチを活用し、従業員一人ひとりの会社でのポジティブな素晴らしい体験を互いにシェアしたということと、従業員が入社したら、永久に学習し続けることができる環境を整えることを約束し、実践した点である。また、従業員ESサーベイを定期的に行い、従業員のエンゲージメントと組織のパフォーマンスを結びつけている。

「TU102:Execution vs. Engagement: Executing on Business Objectives While Fostering Employee Engagement(実行vs.エンゲージメント:従業員のエンゲージメントを高めながら、ビジネス目標を達成する)」では、グレイト(偉大)な人は、「エンゲージメント」「アカウンタビリティ」「エクセキューション」ができているということが話されていた。それぞれについて「Faith、Fire、Focusを用いてエンゲージメントを構築する」「SayDoCoを用いてアカウンタビリティをつくる」「G.R.O.W.モデルを用いてエクセキューションを達成する」など、方法論も紹介されていた。この中で、スピーカーは、「Capabilityだけあっても、パフォーマンスが向上しない、精神的なInterference(障害)を取り除かなければならない」ということを強調しており、障害を取り除きつつ「Faith、Fire、Focusを用いること(エンゲージメントの構築)」によってパフォーマンスを向上させることができると語っていた。

最後に、「TU205:Help Them Grow or Watch Them Go: Career Conversations Employees Want(TU205:彼らの成長を助ける、さもなければ彼らは去るでしょう:従業員が望むキャリアの会話)」は、毎年セッションを行っているビバリー・ケイ氏のセッションである。自己紹介の中で、ケイ氏は90年代にエンゲージメントやリテンションについて研究し、現在はタレント・マネジメントに取り組んでいると話している。セッションの内容は、タレントを惹きつけ、成長、維持するには、マネジャーと部下とのキャリア・カンバセーションが大事であるとし、その方法について紹介していた。

こうしたセッションでの内容を受けて、全体的に注目に値するポイントが2つあると考える。1つ目は、「タレントがあっても、パッションやエンゲージメントのようなものがないとそうしたタレントが引き出されない、活かされない」という考え方が共通認識として出来上がってきているという点である。2つ目は、「タレント・マネジメントを組織としてトップ・ダウンで実施するよりも、一人ひとりが自身のタレントを認識し、それを日々の仕事につなげていけるように支援する」という傾向がみられるということ。言い換えると、企業の基準で「タレント」を定義して、それを管理し、開発し、活かすことを考えるのではなく、個人が自分自身でタレントを見つけ、それを発揮していけるように支援することを重視する傾向が強くなってきている。
今後、従業員のエンゲージメントを高め、タレントを活かすにはどうしたらいいのか、その中で人事や人材開発の役割はどう変わっていくのか、動向を見守っていきたい。

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